第74話 持ち込まれた難題(6)
マーヤの念話は問題の解決になるのか?
『今のままの治癒魔術? 治癒魔術を改造するの?』
マーヤが念話して来たのは治癒魔術の改造の目途が付いたからなのだろう。
『今の治癒魔術は複雑すぎるのよ! もっと簡単な魔術陣にして対処する効能を絞るの』
でも簡単な魔術陣って単純に分割するなんて無理よね。
『治癒の働く順番は検査、同定、分岐、治癒、繰り返し判定の流れに成るけど効能別に作っても流れは同じだと思うけど』
『検査と同定は省く、分岐で治癒内容ごとに分かれる所を別にする、つまり最後の治癒だけ作るの』
『そうか、検査してどんな対処をするのか判別する部分を省略して人が行うんだね』
『作るのは個別の治癒だけで良いのね、じゃあ最後の繰り返し判定は?』
『必要無い、治癒に魔力が尽きるまで治癒させる』
『過剰治癒に成らないの? 傷が盛り上がるとか、排斥の対象の細菌以外を排除するとか』
『治癒自体が過剰に治癒する事が無い、治癒の対象が無ければ空回りするだけだよ』
そうか傷を治す治癒は傷を治し終わると空回りして過剰な治癒をしないのか!
『魔石磨きの方はどうするの?』
書き込める魔石も増やさなければ魔術陣が簡単でも魔石が無いと書けません。
『今より下の9級の魔石にして、磨きは少な目にするわ』
『それだと陣の書き込みで誤差が出ないかしら?』
表面が荒いと書き込んだ陣がデコボコに成って動作が不安定になりそうです。
『ううん、大丈夫だよ、今の磨きは再使用を前提にしているから丁寧に仕上げているけど使い切りの魔道具にするなら簡単な磨き程度で十分だよ』
『えーと、治癒魔術の対象を少なくして、1度しか使えない魔道具として作るのね』
『そうだよ、傷やケガの治療だけとか、毒や病原菌の排除だけとか、肺病とか風邪だけとかも良いかも』
黙り込んだラーファを覗き込んだ男爵さまがラーファが目を上げると、びっくりして後ろへ飛びのいた。
「イガジャ男爵様、製造用魔道具を作りますので、9級の魔石を取り合えず100個、用意していただけますか?」
ラーファの提案に飛び上がらんばかりに喜び、声を弾ませた。
「もちろんじゃ、早速100個ぐらい直ぐに魔石を集めるぞい」
「所で何で9級じゃ?」
「ラーファは最初はイガジャ男爵さまから言われるままに、今行っている置き薬と同じに使用した分だけ売って代金を受け取る事を考えていました」
「それ以外に治癒魔石を売る方法はなかろう?」と男爵様は不思議そうです。
「量産する治癒魔石は効能を一つに絞って、1度だけの使用を考えています」
「そうする事で大量生産が出来るようになりますし、使用する魔石を9級に出来ます」
「使い捨てと言う事か? それは魔石へ再充填出来ないと言う事かの?」
イガジャ男爵さまも分かって来たようです。
「はい、新しい治癒魔石は1度しか使えないので単純に売ってお終いです」
「ただ種類が多くなるので値段の付け方を考えなければなりません」
「あまり値段を下げて一般の医者と競合する必要はありません、医者を通して使うべきです」
「あくまでも医者の処方の一つとして使うのが望ましいです」
「あるいは、医者や魔女が居ない場合の緊急時に使うのが良いですね」
「うむ、良っくわかったぞ。」
男爵さまは機嫌よくお茶会用の部屋を出て行かれました。
「おうい、バンドル、来てくれ。」とバンドル家宰を呼ぶ声がするので魔石の手配を頼むのでしょう。
魔石の件は男爵さまに任せれば用意してくれるでしょう。
今する事は治癒魔術陣の作成ですね。
『マーヤにお任せあれ、今ある魔術陣から抜き出して単独で動くように改造すれば良いだけだから』
マーヤに任せてもよさそうね、ラーファは研磨と作成用の魔道具を作ろうかしら。
確実に1回使えて、再充填も再使用も出来ない様にした方が間違いが起こらないから、動かしたら壊れる仕掛けを作ろう。
治癒魔術の過剰治癒が無害なら、魔石の魔力を過放出させて魔石の崩壊を起こせば良いよね。
過剰放出分、前の治癒より長く治癒出来るようになって性能が上がるわ。
一度患者に使うと魔石が崩壊し灰になるから、間違えて空の治癒魔石を使う事が無くなるわ。
後は使いやすい形を決めれば良いわね。
9級の魔石はどちらかと言うと小さいから何かの入れ物が良いわね。
そうだ、注射器の形はどうかしら、
肌や服に魔石を押し付けると治癒魔術が行使される、うん良いかも。
ケガや傷の治癒魔石は銀貨10枚、毒や病原菌を除外する治癒魔石なら銀貨25枚、肺病専用の治癒魔石は完治まで何度も繰り返す必要があるので値段は銀貨1枚とかですね。
値段はさて置き、9級の魔石が来たらマーヤと新しい使い捨て治癒魔石の開発です。
次回、新しい治癒魔石は新しい難題を引き寄せたようです。