第73話 持ち込まれた難題(5)
治癒魔石の開発秘話というほどの話ではありませんが物作りです。
治癒魔石の工房内を見ながらラーファはこの工房が作られる切っ掛けになった出来事を思い出していた。
3年前の事をラーファは思い出していた。
その頃のマーヤは猫ぐるみが気に入って何やら魔改造して着ていた。
マーヤが飛竜に乗るための猫ぐるみは本来手足を動かす様には作られて無いけど、中から操作して歩いたり手で物を持ったりできる様に改造したらしい。
マーヤは猫ぐるみを着て、神域内をワイバーンに乗って飛んだり、編隊を組んで一緒に飛空で飛んでいる。
その内、背中の落下傘で降下テストを試してもらう積りでそのままに成って居る事も思い出した。
その猫ぐるみを着たマーヤの言葉から始まった。
『ねぇラーファ、ダキエ銅貨の裏表の加工はラーファはどうやって行っているの?』
「表面の加工は土魔術の付加で形を作ってるよ、厳密に模様が決められているから写す必要が在るからね」
『ダキエ銅貨の表面に魔術陣を土魔術の付加で写したらさ、魔道具として使えちゃった!』
マーヤがなんでそんな事をしたのか不思議に思ったラーファは一番疑問に思った事を聞いた。
「どのくらい小さく書いたのよ、銅貨の大きさに魔術陣を描くには銅貨の大きさって小さ過ぎよ!」
『銅貨の表面を平滑に加工するのが大変だったけど、魔術陣を小さく土魔術で付加するのは縮小する魔術陣を使ったから簡単だったよ』
「平滑ってマーヤ、ダキエ銅貨って硬化の付与がされてるよね、付与前なら分かるけど、それを平滑って・・・ 」
「アーァアッ、そうねぇ いまさらかぁー」大きく息を吐きだしながらラーファはマーヤの事だからと力を抜いた。
ラーファはマーヤのこれまでのやらかしを思い出した。
神域に倉庫を作ると言って1辺1ワークの空間(3.175立方㎞)を作ったり、肉片や卵からワイバーンを創ったりその他もろもろの神域内の変化などだ。
今回はそれらに比べればダキエ銅貨とラーファの気持ちで済んでいるので被害は少ないのかもしれない。
「どんな魔道具を作ろうと思ったの?」
『土の魔術の穴を掘るのだよ、水道を掘る時に魔女見習いでも行使できないかやってみたんだ』
ラーファの力に成ろうと工夫してくれたのだと分かると、途端にマーヤが愛しくなるのは親バカだとラーファも自覚しているが、止める積りは無い。
「なぜダキエ銅貨に錬金術の付与では無くて土魔術の付加で書き込んだの?」
ラーファは、マーヤの今回の発明でなぜ付加にしたのか理由がわからなかった。
『ダキエ硬貨は錬金術の付与で硬化の魔術が行使されているよね、其処に重ねて付与するのは誤動作するから付加にしたんだよ』
「確かに魔鉱物の合金の板に魔術陣を付加した魔道具は幾つか在るけど、簡単な物しかなかったと思うけど」
『うん、だから表面を出来るだけ平滑にして陣の回路を微細にしてたくさんの回路を書き込めるようにしたんだよ』
「そうだったのね」
この事がきっかけで地中深く穴を掘って固める水道の魔道具が作られて実際に使用された。
ラーファは治療所で魔女が居ない時の置き薬の一つとして、この魔道具に治癒魔術を付加出来ないかと思った。
水道の魔術ぐらいだと問題無くダキエ銅貨に刻めたが、治癒魔術ほどに成ると面積が足りなかった。
そこでより広い物に書き込む事になり、ダキエ銅貨の代わりに魔石を使って書き込んだのだ。
魔石の表面が球なので表面を滑らかにする事が難しかったが、専用の魔道具を開発した。
それでも面積が足りないのでくず魔石を使って積層化や魔術陣の保護のためコーティングするなどが必要だった。
こうしてやっとの事で治癒魔術が使える魔道具の魔石が完成した。
治癒の魔術ほど複雑な魔術陣を魔道具化出来たのは此れが初めてだと思う。
魔銅の合金(ダキエ銅貨)から魔石に変えた事はこの先魔石の値段の急上昇を招く事に成らないだろうかと心配したが、ダンジョンからいくらでも供給される魔石は多少需要が増えても問題なかった。
こうして治癒魔術を付加した魔道具(魔石)は完成した。
試しに置き薬に追加して診療所の管理人に此の魔道具がどの程度の治癒効果が在るか教えて使って貰った。
対価を銀貨50枚としたのでめったに使われることはなかったが、緊急時のケガの対応や子供の病気への使用などの使用例がポチポチ在り、この置き薬が在るだけで安心できると診療所の管理人にも好評だった。
ラーファも好意的な評価を受けて魔女の城郭に治癒魔術の魔道具工房を作る事にした。
その工房には、魔石の表面を滑らかにする魔道具。
魔女が治癒魔術を行使するとその魔術陣を縮小して魔石に積層して付加する魔道具。
最後に魔石の表面をコーティングする魔道具などを据え付けた。
如何せん治癒の魔術陣は複雑すぎて一つ完成するのに3日掛かってしまう。
能力は月産10個、使用済みの治癒魔石への魔力の再充填なら100個は対応できると思っている。
イガジャ男爵さまが売り出そうと考えてラーファに相談した時は、工房が稼働して3年以上経ってイガジャ領内に治癒の魔石がいきわたるようになってからだ。
如何せん現在の生産は月に10個です、しかもこれは領内への置き薬になる分なので売り出せるだけの余力がありません。
ラーファがイガジャ邸に帰って来てもお茶会をする部屋で考え込んでいると男爵様がやって来た。
「イスラーファさまどうでしたか、何か良い方法でも在りましたか?」
黙って首を振るラーファに、男爵さまはがっかりして肩を落としてしまった。
『ラーファ、今のままの治癒魔術で作ろうと考えているから難しくなるのよ』
マーヤが念話で割り込んできました。
マーヤの念話で解決するのでしょうか?