結婚すればいいんでしょう
「………行くわ、私」
「姉上!」
「お姉様…」
「おお、そうかそうか、決めてくれたか。まあ当然だがな、お前もいつまでもこの家にいたところで穀潰しとなるだけだ」
「こんな立て続けに婚姻が決まるだなんて、おめでたいわねえ。あなた、今日くらいはパーティーを開いても良いんじゃなくて?」
「おお、そうだな!肉と、ワインも高いものを用意させよう」
「何を仰っているのです。特別なことなど何もしません。リリアはともかく、姉上のこんな婚姻の何がめでたいというのか…」
それに今日の夜に豪勢な食事を出されたところで、出ていく私の口に入ることはない。きっと母は本気で言っていて、それに気付いてすらいない。
彼女にとって私は透明で、いてもいなくても構わない存在なのだろう。最後の最後まで、それは変わらなかった。
節約しているからだけではない、味気のない食事を早々に終え、私は席を立った。
「お先に失礼致します。…旅の準備をしなければならないので」
「姉上、僕も行きます」
「わ、私も…!」
食堂を出る私の後を、カイルとリリアが追ってきてくれた。
そのまま私の部屋へ行くものの、少し途方に暮れる。自分が結婚するだなんて思わなかったから、こういうときどうすればいいのか分からない。
そもそも名家の令嬢ならば本人ではなく、本来使用人たちが世話を焼いてくれるはずだ。だけど金に飢え最低限の使用人しか雇えていないこの家では彼らはただでさえ多忙で、私のこんな私事には巻き込めない。
「ねえ、カイル、リリア。結婚って何を持って行けばいいのかしら?服は多少必要よね」
「姉上…」
「お姉様、本もいくつか持って行った方がいいわ。馬車での長旅は、きっと退屈よ」
「あ、確かにそうね!ありがとう、リリア。貴女は本当に気が利くわ。でもあまりたくさんの荷は持てないわ、そもそもそんなに荷物が入る鞄がないもの」
「姉上、本当によろしいのですか…」
どこかさっぱりとした風にすら見えるリリアと違い、カイルの表情はただひたすらに暗い。確かに怒涛の展開で、気持ちが追いつかないのは無理もない。
慰めるのは簡単だけれど、でも、これはカイル本人が乗り越えていかなければならない。これからは私も、リリアもいなくなる家で、1人生きて行かなければならないのだから。