私は強いから大丈夫
「どうしてもっと早く教えて下さなかったんですか!」
「ああ、悪かった悪かった。リリアの婚姻に頭がいっぱいで、すっかり忘れていたのだ」
「なんて言い草を…!」
同じ娘の婚姻でも、扱いがまるで違う。
私はもう、いっそおかしくて笑ってしまった。大体今はもう父などより、この書状の方が重要だ。
「リフトン領子爵、アルトベル・サーチア…」
「…聞いたことがありませんね」
「カイルも知らないの?」
「アルトベル…」
「リリアは知っていて?」
「い、いえ…私の知っている名とは少し違うような…」
「リリアが知っているわけないだろう。リフトン領はとんでもない田舎だ。まったく、手紙のやり取りをするにも面倒で仕方ない。子爵という立場だけはあるようだが、きっと何か問題でも起こして辺境に飛ばされた、馬鹿息子というところだろうな」
「いつでも迎え入れる準備があるという手紙も、今朝届いたのよ。だからフレイ、貴女早速行ってみなさいな」
「え…今日ですか!?」
「お父様が言ったでしょう?リフトン領はとても遠いの。今この瞬間から出て馬車を飛ばしたとしても、向こうへ着くのにきっと3日はかかるわ。途中で休みを取るならもっとかかるでしょうね」
「そんな場所に姉上を…?ではもう、僕とは会えなくなるのでは…」
強気だったカイルの声に、戸惑いが生まれる。
カイルに聞き覚えがないということは、確かに父の言う通り有力な貴族というわけではないのだろう。
ただでさえ遠い土地に嫁ぎ、社交などとも縁がないとなれば、リリアやカイルと再会することもきっと難しくなる。
興奮と失望、歓喜と悲哀。色々な感情が襲ってきて潰れてしまいそうだ。
私はどうしたらいいのだろう、いや、リリアのことを考えれば取るべき道は決まっている。
だけど私の一生に関わる話だ。結論が出せない。決めるのが怖い。
そんな私の背中を押したのは、冷たい父の言葉だった。
「確かにそうかも知れぬな、リリアとカイルはまだいくらか会えるだろうが。まあしかし大丈夫だろう。フレイは強いからな」
「………」
──そう、私は強いの。
だからカイルやリリアが心配するようなことなんてないし、もしも不安に感じさせているのならば、私は大丈夫だと示さなければならない。
ずっとそうしてきた、私は、……そうしなければならなかったから。