何かあったら、助けに行く
「…どんな人か、リリアは会ったの?」
「ええ。18歳でね、黒髪が素敵だったわ」
「まあ。見た目は案外好みだったの?」
「そ、そうなの、格好良くて…やだ、私ってばはしたない…」
「あら、見た目は大事じゃなくて?でも良かった…」
どうやらお相手は、年の近い、見た目に関しては好青年のようだ。
あの両親ならば、相手がとにかく裕福であればどんなに年の差があろうと、どんなに黒い噂があろうと差し出すくらいのことはしかねないので、その点だけは助かったと言うべきかも知れない。
「じゃあ、お相手の方もリリアのことは知っているの?」
「ええ。私はいつのことか覚えていないのだけど、お母様に連れて行かれたパーティーで私を見初めたらしいの」
華のある美少女に育ったリリアは、私とは違い母にしょっちゅう社交の場に連れて行かれていた。
社交とは名ばかりで、きっと母のお眼鏡に適うような殿方を見繕う為のものだったに違いない。少なくともリリアが望んだものではない。
リリアは人の目を引く外見をしているものの、手芸と読書が好きな、至って内向的な少女だ。
「結婚は不安だけど、でももうパーティーには行かなくて済むのよね、私」
「あらリリア、ブレイク家って公爵だし王とも親しいって聞くわよ?きっと社交は今よりも多いわ」
「ああ、きっとそうだわ…。でもね、お姉様。私、お母様と一緒に行かなくて済むことが嬉しいの。お母様ってば、やれこの服は最先端の店のものとか、この宝石がどれだけ貴重かなんて自慢ばかり。…家では節約節約って、食事もどんどん質素なものになっているのにね。私もういたたまれなくって」
「そうだったの?大変だったのね、リリア…気付いてあげられなくてごめんね…。そうね、それによく考えたら、花嫁修業もしなくていいものね」
「あ、本当だわ!もう叩かれなくて済むのね」
基本的に放置されていた私と、溺愛され猫可愛がりされていたカイルと違い、リリアは厳しく躾られた。どんな家柄の相手に嫁いでも恥をかかないように、らしい。
ときに折檻に近いお仕置きを受けていた妹を助けるのは、いつも私の役目だった。
「……でももう、泣いていたって姉様に助けてもらえないわ」
「何を言っているの、リリア。貴女に何かあれば、私はいつでも飛んで行くわよ。公爵だろうと国王だろうと関係ないわ、リリアを大切にしないなら、私たちの妹は返してもらうんだから」
「ふふ、それなら安心ね」
「あら、私は本気よ。だって私は強いんだから」
ソリも性格も歩調も何もかも合わない私と両親の仲だけれど、ひとつだけ正しかったことがある。
私は、確かに強く成長した。
両親に虐げられたって、愛情を得られなくたって、しくしく泣いて暮らすような女性には育たなかった。
それが疎ましい両親はいつの頃からか、ついに私を嘲るようにまでなったけれど、それすらどうということはなかった。
私だって彼らを、心の底から見下していたからだ。
「姉様は強くなんかないわ。ただ優しいだけよ」
「そんなことを言うのはリリアだけよ」
「あら知らないの?優しいということは強いということなのよ」
私には少し理解しがたいけれど、リリアはそう言って微笑んだ。
この笑顔を曇らせるような縁談にならないようにと、それだけを願った。