また皆で会えたら
私がアルト様の元へ嫁入りしてから3ヶ月程が経った頃、カイルから一通の手紙が届いた。文面はあくまで落ち着きを取り繕っていたけれど、内容には興奮が抑えきれていなかった。
そして私もまた、驚きを隠せなかった。
カイルが近々父に成り代わり、領主となる。
父が仕事をせず、実質カイルが取り仕切っていた事実が不思議なことに漏れていて、親戚も領民も了承済み、何より国王からの後押しがあったのだという。
権力に弱い父と母は、王からの退けという通達に反論する術もなく、項垂れるしかなかったという。
今は小さくなって大人しいが、あの性格がすぐに変わるとも思えないから引き続き目を光らせる、とも。
貴族とはいえ、王やその周辺の高貴な血とは縁のなかったレティシアン家などに王からの伝達があるなど、異例でしかない。
カイルが驚くのも、時折文章がおかしくなっているのも仕方のない部分はある。
父と母を権力から遠ざけられるのは嬉しいけれど、一体何があったのだろう。ある種異常事態ともいえた。
「アルト様、近いうちに一度、実家に戻ってもよろしいでしょうか…」
「どうかしたのかい?」
「はい、あの、弟が実家の跡を継ぐことになったので、お祝いを言いたくて…」
「ああ、そのことか。心配いらないよ、近々会えるはずだからね。リリア嬢も一緒に」
「リリア?」
「私にも届いたよ、ほら。従兄弟からの婚礼の招待状だ。リリア嬢とのね」
「リリアの!?」
「式はひと月後だ。私に関しては、地理も遠いし身体のこともあるから無理はせずとも良いと書かれているけれど、勿論参加するよ。フレイもそれで構わないよね?」
「え、ええ…!ありがとうございます、アルト様。でも、お身体に障りがあるときは無理はなさらないで、必ず私に仰って下さいね」
移動が大変なのは既に目に見えているし、ブレイク家のご子息の式ならば盛大なものになるに違いない。人がたくさん集まって、アルト様の苦手な酒宴なども開かれるはずだ。
結婚式には出たいけれど、リリアとの縁は切れていない。
その日でなくとも会える機会はあるはずだという余裕が、私の中には少し生まれていた。
「ああ、ありがとう。それでね、リリア嬢の式には、カイル殿も参加してもらおうと思っているらしいよ。兄として、またレティシス領主レティシアン家の当主としてね」
「カイルを…!?」
「あちこちから貴族が来るし、なんなら王も少し顔を出すおつもりらしい。新しい当主殿の顔見せにいい機会だろう?」
「アルト様…」
私たちのお家騒動にわざわざ王が口を出してきたのは、彼らの力があってのことに違いない。
アルト様もだし、妹を愛してくれているという従兄弟の方も何か手を回したのかもしれない。
ブレイク家の力というものを改めて思い知らされた気がする。けれど怖くはない。彼らはその力を、私たちを救う為に使って下さったのだから。
私は思わず彼に抱きついて、また少し泣いた。
「アルト様…」
「フレイ、流石に今回は新しいドレスを繕わないといけないよ。美しく、値も張るものを。それを身につけることで、彼らは安心するのではないかな。少なくとも金銭面で、君は苦労することはないのだと」
「あ…申し訳ありません、私の為に…」
「申し訳ないと思ってくれているなら、ひとつ我儘を聞いて欲しい」
「なんでしょう?」
「その、君の着るドレスは、僕が選びたい。デザインなどはさっぱりだから、ココやレナの手も借りるとして、僕が君に着てほしいと思うものを着て欲しいんだ…駄目かな?」
「そんなことですの?アルト様が喜んで下さるのなら、私はそれが一番ですわ」
「フレイ…」
「アルト様、私、早くカイルとリリアに会いたいわ。伝えたいの。私の旦那様はとにかく素敵で、大好きなんだってことを自慢したい。…駄目な姉かしら」
「とても可愛い姉だと思うんじゃないかな?…あ、いや、これは僕の感想だな」
「アルト様ったら…」
カイル、リリア。
私はやっと、姉として誇れる気がする。
私が苦しんだって2人は喜ばないのだと、早く気付くべきだった。自己犠牲ばかり考えず、皆で幸せになれる道を探せば良かった。
視野が狭くなっていたあの頃の私は、今考えるとそんなに強い女ではなかった気がする。アルト様が私を受け入れてくれたから、それに気付けた。
ごめんなさい、苦しめたかも知れないわね、でも2人ならきっと許してくれる。
だから伝えたい。私は今、とても幸せだと。
完
これにて完結です!
皆様お付き合い頂いてありがとうございました!




