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強くなければならなかった



ゆっくりと開いた視界で私を見つめるのは、まだあまり慣れないアルト様の顔だった。

不安そうな、それでいて安堵したような複雑な表情ではあるけれど、そんなものはどうでも良かった。

アルト様が、目覚めている。ずっと伏せていた彼が、起き上がれるまで回復している。

途端に涙が溢れて、枕を濡らした。


「アルト、様、良かった…っ」

「心配をかけたね、フレイ。私の為に無茶をさせた。すまない…」

「いえ、いえいいの、貴方が無事ならそれで…」


アルト様の指が涙を拭ってくれているのに、その雫はまったく止まってくれない。

どうしてよ、今まで泣かずに頑張ってきたのに、アルト様に迷惑をかけたくないのに、どうして今になって止まってくれないの。

伝えなければならないことがあるのに、こんな涙に濡れた顔では説得力なんてまるでないのは分かりきっていた。


「大丈夫、です、私は、強いから…」

「フレイ…」

「私のことは、いいから…」


アルト様が、困ったように笑った。


「……そうだね、フレイ。君は強い人だよ。でもね、僕の前では弱くなってもいいんだよ」

「アルト様…」

「弱いのは悪いことかな?僕は身体が弱い。君にも、皆にも迷惑をかけてしまったね。それを悪いことだと思うかい?」

「いいえ、そんな。だって、そんな、アルト様が望んでそうなったわけではないでしょう?」

「ほら、同じだよ。僕の弱い部分を、君が看病という形で助けてくれた。今回は薬草まで探しに行ってくれたね。君が何か弱いところを見せたとして、だったら次は僕が補うだけの話だよ。そうして、支え合っていけばいいと思わないかな?だって、僕たちは夫婦だ」


どこに隠れていたのかと不思議なくらいの涙が更に溢れた。涙を拭ってくれていた手は頭へと移動し、眠りすら誘う優しい力で撫でてくれる。

彼は、弱い私ですら受け止めてくれた。自分の力で起き上がれるだけの体力が、まだ戻っていないのが口惜しい。今、私は無性に彼に抱き締めてもらいたいのに。


「…っ、だって、だって私が強くないと、弟と妹を、守れなかった…」

「うん」

「家だって、潰れていたかも、しれないし…っ」

「うん…」

「強くない私なんて、誰からも必要とされないって、そう思って…っ」

「うーん、それはちょっと弟さんと妹さんが聞いたら怒るんじゃないかな?」


くすくすと笑った彼が、私の心を読んだかのように背中を支え、身体を起こしてくれた。

さっきよりもずっと近い距離。吸い込まれてしまいそうな程の黒い髪。

しばらく土を弄っていないからから、いつもよりもしっとりとした綺麗な手が、私の手に重なる。



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