じっとしていられない
「このところ天気が悪く急に冷え込んできたので、そのせいだと思います。数日様子を見て、しっかり水分だけは取らせて下さい、薬も置いておきますので」
「分かりました。ありがとうございます、先生。また何かあればお願い致しますわ」
医師の見立てでは、大したことのないように思えた。
だけどその日から5日経っても、彼の熱は下がらなかった。むしろ呼吸は荒く、汗ばむようにもなっていて、素人目では悪化しているとしか思えない状態に見える。
私たちもまた、疲れていた。
朝も夜もないまま看病は続き、寝不足で時折意識を失いそうになる。
一応ランベックやココ、レナと交代し、1人が徹夜で面倒を見るというような事態は避けてはいるけれど、アルト様が苦しんでいるなかゆっくりと眠れるはずもない。
悪夢に魘され、小刻みに目が覚める。そんな浅い眠りが続いてしまう。
きっとそれは私だけではなく、この家で働く皆がそうだろうと思う。普段冷静なランベックも、流石に動揺を隠せてはいなかった
「どうしましょう、ランベック。アルト様の熱がまだ下がらないわ…」
昨夜から看病していた私はランベックが部屋に現れてようやく、今が既に早朝であることを知った。
汗を拭いたり薬の時間には起こしたり氷を替えたりとやることは多いけれど、むしろ動ける方が気が紛れた。
ただ苦しむ彼を見つめることしか出来ない時間は、ひたすらに辛い。ランベックは窓の外をちらりと窺い、声を出した。
「……もしかしたら、アルト様は幼少の頃から薬を必要とすることが多かったせいで、規定量だと効きが悪いのかもしれません」
「そんな、ではたくさん飲ませればいいの?」
「いえ、分かりません。あくまで可能性の問題です。奥様、お願いがあるのです。お疲れでしょうがあと数時間、いえ数十分、旦那様を看ていて頂きたいのです。私は少し出て来ます」
「それは構わないけれど、何をしに行くの…?」
「この辺りにはよく効く薬草が生えているのです。それを探してきます」
「待って、そんなものがあるのなら私も行きます!」
「なりません、奥様。今朝は特に冷えます。せめて日が完全に顔を出してから動かれて下さい」
「アルト様が苦しんでいるのに、そんなじっとしていられないわ!ランベック、看病を代わって、貴方が行くのなら他の者に頼みなさい。私は行きます」
「あ、奥様!お待ち下さい!」
制止する声は無視をして、私は玄関へ走った。ほんの少し扉に触れただけでも、ひんやりとした外気が伝わる。
この気温の変化は、他にも体調を崩す人が出るだろうと思う。効果のある薬草があるのなら、アルト様の分だけでなく多少多めに取っておけば、後々役に立つかもしれない。
扉の先から流れ込んでくる冷気は、興奮した顔にはむしろ心地良くもあった。早朝ではあれど農作業をする方の朝は早く、既に何人かが働いている姿が見える。
もうすっかり慣れてしまった何人かに駆け寄り、私は懇願した。




