近付く距離
雨が続いていた。といっても、私の実家にいた頃も長雨に降られる時期はあったので慣れたものではあったし、量はずっと少ない。
「それにそろそろ止むと思うよ、ほら、向こうの山の辺りはもう雲がない」
「本当ですわ。良かった…雨は嫌いではないですけれど、続くと村が心配になりますもの」
「そうだね、不安がないわけじゃない。雨よりも問題は気温かな、近頃は少し冷えるよね」
「ええ、早朝など息が白いときもありますわ」
「山が近いから、夏でも冷えるときがあるんだ。暖房器具が足りないときはいつでも言っておくれ、フレイ。ところでね、先程頼んでいたものが届いたんだ。貰ってはくれないかな?」
「え?私にですの?」
「ああ。ココとレナがまた休日に街へ行くと行っていたから、フレイに似合いそうなものがあれば買って欲しいと頼んでいたんだ。だから私も、彼女たちがどんなものを買ってきたのかは知らない。ささ、見てみよう」
「もう、アルト様ったらお仕事はまだ終わっておりませんのに」
「息抜きだよ、息抜き」
あの日のキスでまず変わったのは、アルト様だった。敬語を使っていたけれど、すっかりくだけた口調で私と接してくれる。
勿論いいかなと確認してくれて、私が了承した上での結果だ。
キスは突然だった癖に、話し方は尋ねてくるのかと思うと少しおかしい。
「まさか税を使ったわけではありませんわよね、アルト様?」
「心配いらないよ。これは僕個人の資産から出したものだし、君が嫌がるような高級品でもない。何せココとレナの行きつけの店の品だからね」
「それならいいのですが」
「フレイはしっかり者の上に民に優しい。そういうところが大好きだよ」
「も、もうアルト様…そんな当たり前のことまで褒めて頂かなくて結構です」
「それが当たり前でない人も多いからね。でも、何着かは多少値の張るドレスも買っていた方がいいね。貴族にはそういうものもある程度は必要だ、君も分かるだろう?」
「……分かりました。でも一着、いえ、暖かい季節と寒い季節のニ着、それで構いませんわ」
「私はこれでも、ドレスならばある程度余裕で払えるつもりでいるのだけど」
「だってあまりお高い服だと、勿体なくて土いじりが出来ませんもの。そんなにたくさんいりません」
「それは確かにそうだけれど。……ん、これは…」
紙袋から取り出されたのは真っ黒の、ところどころにフリルのあしらわれたドレスだった。
私が持っている中には明るい色のドレスが多い上に、ココとレナが選んだにしてはシックで落ち着いた雰囲気の品ではある。
ただ、アルト様が立ち上がり全体を広げてくれたそれは胸元が大きく開かれていて、丈も短く太腿を晒してしまう。
他人の前で着るのは少しだけ抵抗があるかもしれない品だった。




