初めてがたくさん
「ねえココ、レナ、聞いて、あ、アルト様にデートに誘われたのだけどっ」
「いいじゃないですか奥様!おうちのことは私たちに任せて行ってらして下さい!」
「で、でも私デートなんて初めてなの。どんな格好で行けばいいのかしら?私流行りの洋服などまるで知らないし、持っていないの」
「奥様ってば気にしすぎですよ。本当に美しい方は流行りになんて流されなくても大丈夫なものです」
「そうですよ。あ、でも高いヒールのある靴は控えた方がいいかもしれません、デートなら少し歩くでしょうし!」
「な、なるほど…確かにそうですわね」
「奥様、一応奥様が着られるようにと旦那様が何着か用意した服もあるんですよ。見られました?」
「ええ、クローゼットに私のものではない服があるのには気付いていましたが…あれは私に?」
「旦那様からの贈り物ですよ!お好きなものをお選びになって下さい!」
「待って、一緒に見て、何が自分に似合うかなんて私分からないもの…!」
厚かましい願いも、彼女たちは笑顔で受け入れてくれた。使用人と主人という立場ではあるけれど、女友達とわいわいしているようで嬉しくもあった。
それに何より、アルト様が気に入って下さるかどうかが一番の懸念として不安になってしまう。私は少しずつ、彼に惹かれ始めているのかも知れない。
レモンイエローのワンピースドレスに髪を軽くアップして、靴は歩きやすいものを。ココとレナのとても素敵だという言葉を信じたいけれど、アルト様が迎えに来るまで私には不安しかなかった。
用意が終わったと自分から部屋に誘いに行く勇気は、私には持てなかった。そして緊張が途切れないまま鳴った扉に、思わず小さな悲鳴が漏れてしまう。
「……フレイ、準備は出来ましたか?」
「あ…っ、は、はいっ、大丈夫です、いつでも行けます…!」
そっと扉を開ける。彼の前にこの姿を晒した瞬間の反応は、怖くて見られなかった。だから私は目を閉じて扉を開け、アルト様の反応が来るのをまず待った。
私が想定していた反応は、言葉だ。お優しい彼は例え似合っていなくても、綺麗だとか美しいと言ってくれると思っていた。
だけどアルト様から真っ先に受け取ったのは、言葉ではなく抱擁だった。




