デートをしましょう
「……暇だわ」
辺境の奥方は、予想以上に退屈だった。時間を持て余した。
私は実家では父の代わりにほぼ仕事をしていたので、その落差にまだまだ慣れそうにない。
この環境にまず慣れるべきだという言葉に甘え、3日程、とにかく寝たり起きたり意味もなく村をうろちょろしたりと、自分でも意味が分からないと思う行動を取っていたけれど、そろそろ限界に来ていた。
仕事中なのは承知の上で、私はアルト様の部屋の扉を叩いた。
「あの…お仕事中申し訳ありません。フレイです。少しお話したいことがあるのですが」
「フレイ?構いません、遠慮せず入って下さい」
「失礼致します」
アルト様は書斎で書類に目を通しているところだった。
落ち着いた部屋には窓から心地良い風が吹いていて、ともすれば眠気を伴うものでもある。
「どうかしました?」
「あの…私、何かお手伝いしたいです。お仕事などはないでしょうか?」
「ゆっくりしていていいのですよ?」
「いえ、私動くのが好きなのです。雑事でも何でも構いませんわ」
「……そうですか。ではこうしましょう。私もこの書類が終わってしまえば、それで今日は自由になるのです。なのでデートをしましょう。まあその、この辺は見て楽しいようなものはあまりないかも知れませんが、広くないので午後からの散策でも充分色々案内出来るかと思いますから」
「え…!」
デート?殿方とそんなものをするのは初めてだ。したくないわけじゃない、嬉しい気持ちは勿論ある。
ただそうとなれば私は、ここにじっとしているわけにはいかない。
「しっ、失礼致します、アルト様っ、わ、私、支度をしなければなりませんので…っ」
「あまり大袈裟なことはしなくて構いませんよ。フレイはそのままで十分お美しいので」
「〜〜っで、では…っ」
アルト様はもう少し、ご自分の顔を自覚して欲しい。あの顔で見せつけられる優しい微笑みは私の心臓をずっと揺さぶり続ける。
あの方と、デート。まだなんとなく結婚したとの実感が生まれていなかったのに、今この瞬間、あの方が私の旦那様だと強烈に思い知らされてしまった気がする。
部屋へ戻る前に、私はすっかり親しくなったメイドに声をかけた。
彼女たちにも仕事があるというのに、こんな私の為に。実家ではそんなことなかったのに、ああもう自分が情けない。




