結婚式はどうしましょう
昼食を終えた後、私はアルト様の案内を受け屋敷の間取りを頭に入れていた。
といっても広くないので、あっという間に終わってしまった。一階に食堂、風呂場、調理場。
二階にアルト様の書斎と、寛げるリビング、個室はランベックの私室だ。三階にアルト様の私室があり、もうひとつの空室が今日から私のものとなる。
一通り見回った後、リビングで今度はお茶をご馳走になった。素朴な味のクッキーが嬉しい。甘味と香りの良い紅茶なんて、口にしたのはいつ以来だろう。
「ところでフレイ、ひとつ話し合わなければならない大切な問題があると思うのですが」
「え…わ、私何か失礼を?」
「いや、そうではなくて。私たちの式はどうしましょう?」
「式…ですか…」
「さっきも言った通り、私はなるべくここから離れたくないのは確かです。ただ、このような辺境で式を挙げたとして、参列してくれる方はいるでしょうか。何せ遠いですからね。それに見ての通り、この家は多数の来賓をお迎え出来るような設備がないです。フレイだって、流石に式をするのにこの場所は嫌ではないですか?一応教会はあるけれどこじんまりとしたもので、最先端のドレスなどが揃えられている店もここにはないのです。隣街に行くか、取り寄せなければ…ただ隣街と簡単に言っても、結構な距離がありますし」
「………」
参列者など、私の方こそ浮かばない。リリア、カイル。それだけ。
父と母は、きっとこんな場所にまで私の為には来てくれない。忙しかったから、友人なんてものもいない。
いいえ、リリアだって近いうちにお嫁に行くのだから、誘ったところで来るのは難しいはずだ。
カイルは更に厳しい。1人家を離れたら、その隙にあの両親が何か仕出かすか分からない。
別に式に憧れなどはなかった。私には関係のない話だったから。そしていざ自分の身に降り掛かったところで、やっぱりそれは私にとって大した問題ではなかった。
「……アルト様。私、式を挙げなくてはいけないでしょうか」
「フレイ?」
「あ…でも、アルト様は式を挙げたいですわよね。私たちだけではなく、親族や友人へのお披露目の意味もあるし…」
「待って下さい、フレイ。貴女が必要ないというのなら無理に行う必要はないですよ」
「よろしいのですか…?」
「ひとつ聞きますが、式そのものが嫌というわけでは決してないのですよね?」
「は、はい。ただ、うちは今妹が婚礼を控えていて忙しい上に、そろそろ当主の代替わりを行おうと話しているのです。妹も弟もきっと来られない…私には、式に来て欲しい人がいない、です…」
「フレイ…」
「いいんです、…慣れてますから…」
父と母の名を出さなかったことは自覚していた。きっとそれだけで、アルト様には私が2人を呼びたくない、なんなら不仲であると分かってしまったかもしれない。




