改めてよろしくお願いします
どんな人であれ婚姻に異を唱える気はなかったけれど、やっぱり旦那様は良い人である方が嬉しいに決まっている。
だけどアルト様の表情が曇ったのは、むしろここからだった。
「ただ、もうひとつ、ここに来たのには理由があって…」
「な、なんでしょう」
「私、今でこそ健康ではあるのですが実は幼い頃から病気がちだったのです。なので空気が綺麗で水のいい、貴族たちの交流とはあまり縁のない場所がいいのではと勧められた結果ここに来たわけで…」
「?」
「フレイ?聞こえていますか?」
「え、ええ、ごめんなさい。その、それの何が問題なのかが分からなくて。ここでの療養で、体調は良くなったのですよね?何も悪いことなんてないじゃありませんか」
「短期的に見ればそうですね。ただお祖父様の件があったように、私の一族はそこそこ名が知られていて地位もある。あちこちに身内はいて、都会と言える場所を治める親戚も勿論いるんです。だけど例えその椅子が空いたとしても、私がそこを治めることは絶対にない。身体を考えれば、ここを離れられないんです。もっと上を目指せる環境なのに行けない、もっと贅沢だって出来るはずなのに出来ない。一生、この辺境で生きなければならない。…それは良家の令嬢にとって辛いのだと思います。お恥ずかしい話、縁談は破談になってばかりでした」
彼が表情を暗くする理由も、彼にお相手がいない理由も、ようやく分かった。
私やリリアのようにあまり権力に興味のない令嬢もいれば、夫を使って上り詰めようとする女性も少なからずいる。そもそも田舎など嫌だという方も多いだろうと思う。
病弱であれと彼自身が望んだわけもなく、何一つ悪くないのに相応しくないと切り捨てられるのはどれだけ辛いのだろう。
そもそも相手を望むことすら許されていなかった私とは、また別のベクトルの悲しみがあったに違いない。アルト様はまた仔犬のような顔で、
「どうでしょう、フレイ。それでも私と一緒になれますか…?」
と尋ねてきた。安心したのかお腹が満たされたのか彼は悪い人ではないと分かったからか、私はそれを心から伝えることが出来た。
「私でよろしければ、アルト様。末永くお願い致します」
「フレイ…!さあさあ、スープは前菜です、まだ次が来るからお腹いっぱい食べて下さいね!」
彼の笑顔を見ながら、私は胸をときめかせていた。




