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温かな腕



御者の彼は次々に声をかけられ、窓から時折私を覗いてくる顔も期待に満ちている。

粗相のないように頭を下げると大袈裟なくらいに喜んでくれて、こちらの方が恥ずかしくなってしまう程だ。

そしてついに、馬車はとある屋敷の前で止まった。見る限りこの村のなかでは大きな方ではあるけれど、決してうっとりとする程の広さはなく、豪華さもない。

煉瓦での造りに周囲と変わりはなく、違うのは3階はありそうな高さだけだった。

御者が開けてくれた扉から、地面に降りる。久しぶりだからかずっと車内で揺られ続けていたからか、真っ直ぐ立てているのか自信がない。


「奥様、旦那様のお屋敷はここです。お疲れでしたでしょう、アルト様に言って身体を休めて下さいね」

「ありがとうございます。またいずれ改めてお礼を…」


馬車を下り御者の彼に礼を伝える途中で、私はとんでもないこと気がついた。


「あ、ま、待って、どうしましょう。私ったらぼーっとしていて、なんの身繕いもしていないわ。髪もぼさぼさだし、ドレスは皺だらけ、か、顔だって酷いわよね?こんな長旅初めてで、うまく眠れなくて…!」

「いえいえ奥様、大丈夫ですよ。とてもお美しいですから」

「ええ、本当に!すっごくお綺麗な髪ですわ!あ、勿論お顔もですけど!」

「こんな可愛らしい奥様に文句を言ったら、あたしらがアルト様を叱って差し上げますよ」


不安になって御者を頼ってしまった私に、周りを囲んでいた何人かの女性が声をかけてくれる。

きっと貴族の令嬢のなかには、その一種馴れ馴れしいようにも思える態度を苦く感じる人もいるかもしれない。

ただ私は元々民との距離は近い方ではあったし、化粧っけはないものの活き活きとした美しさのある彼女たちに胸のうちを聞いてもらえるのは嬉しかった。

やはり同性でないと伝わらない悩みはある。


「ほ、本当ですか?あ、待って、そういえばお風呂にも入っていないの…!」

「それはつまり、私の為に休息も取らずに来てくれたのですね、フレイ様。とても嬉しい…!」

「きゃっ!?」


背後から力強く抱き締められ、慌ててしまう。

初めて感じる、カイル以外の男性の逞しさ。頭上から響くその声は低く甘く、耳によく通った。



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