別れを惜しんで
「……カイル、そんな顔をしないで。貴方には言わなかったけれど、この家を出ることを考えなかったわけではないの」
「…初耳です」
「旅にでも出ようかと思っていただけで、まさか結婚して出て行くことになるなんて思わなかったけど」
「兄様、あのね。多分だけれどこの婚姻、そう悪いものではない気がするの」
「そうなのか?」
「ええ。お姉様と離れるのは凄く悲しい、この世が終わってしまったみたいだわ。でもね、お姉様がこのまま家に縛られ続けるのは、私もっと嫌。これは姉様にとって、きっといい機会になると思うの」
「……それは、確かにそうかもしれない」
「リリア…そこまで考えてくれていたの?」
思わずその身体を抱き締める。細くか弱く、だけどリリアはとても芯の強いしっかりとした子に育ってくれた。
カイルも同様だ。次に抱き締めたその身体は逞しく立派で、私の背などもうとっくの昔に追い越してしまっている。
「カイル、嘆いている場合ではないわ。お父様がこんな手荒い方法で私を切り離そうとしているのは、折角結納金という餌を貰ったのに、私がいると使えないと分かっているからだと思うの。貴方がこの家をしっかり守らなければいけないわ。頑張って、貴方なら必ずやり遂げられる、だけど助けが欲しいときは、どうしても救いが欲しいときは、お願い、いつでも私を頼って…」
「姉上…姉上も、どうかお幸せに…絶対、幸せになって下さい。姉上こそ、相手が酷い男だったときは必ず戻ってきて下さい、いつでも迎え入れますから」
「そんなの父様や母様が許すかしら?」
「大丈夫、近々僕が必ず当主になってみせます。姉上を受け入れるのに、誰にも文句などは言わせませんよ」
「あら、頼もしいわね」
「お兄様、先程のお姉様と同じことを言ってる」
「ふふ、確かにそうだわ。リリアのことも任せたわよ、カイル。お相手が酷い方だったら、リリアを救って」
「当然です。公爵だろうと国王だろうと、リリアを傷付けるのならば僕は許さない」
「まあカイル、それは…」
「やっぱりお姉様と同じことを言っているわ」
カイルもリリアも、涙を流し、それでも笑ってくれた。私も笑いながらその背を撫でた。
…私は、その最後になるかもしれない瞬間でさえ泣かなかった。
ここで泣いたら、きっと止まらなくなる。離れたくない別れたくないと、きっと泣きじゃくってしまう。だから泣けなかったといった方が正しいのかもしれない。
それに強い姉として振る舞えることが嬉しくもあった。私の結婚があろうとなかろうと、いずれにせよ、私たちの道は違える運命なのだから。
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のろのろペースですみません。フレイお姉ちゃんが幸せを掴むまで、お付き合い頂けると嬉しいです。




