4 強い兎
さて、これから一羽で頑張って生きていかなきゃ。
幸いにも私が獲得した能力はかなり使える。
狼との戦いをきり抜けるために選んだけど、本領は遠距離からの攻撃だ。視認可能な所なら相当遠くでも〈闇の眼〉を発動させることができる。
危険を冒さず、安全に狩りができるってわけ。
この神獣の森は高い木が多い。世界樹っていう一本だけ超巨大な木がある(たぶん富士山を軽く超える)けど、それ以外でも百メートルはありそう。私の巣があった木もそうだね。
木に登った私は、見つけた神獣に片っ端から〈闇の眼〉を浴びせていく。
どうやらダメージさえ与えれば、技能ポイントは入る模様。
完全に倒さなくていいのは有難い。私の技は削るのに時間が掛かり、よく途中で逃げられるからね。
運よく仕留められた獲物はもちろん食べる。
二日ほど狩りをして、私のステータスはこうなったよ。
アイ【霊眼雛鳥】
取得技能 技能ポイント 62P
〈マナ戦闘〉レベル7 〈マナ感知〉レベル4
〈闇の眼〉 レベル4
〈敏捷強化〉レベル2 〈眼力強化〉レベル4
〈眼力強化〉のレベルを上げてみてびっくり。物が透けて見えるじゃない。正確には、私が邪魔だと思うものだけが透けて、標的はよりクリアになる。レベルを上げれば、いわゆる千里眼になるようだ。
これによって狩りはさらに安定した。
強化系はどれも低レベルではあるけど、重ねがけできるので助かっている。闇の吸収特性のおかげで、私はマナを贅沢に使えるから。
怪物が跋扈するこの世界でも、何とか生きていける自信がついた。
たとえば【鎧大竜】っていう五階建てビルくらい巨大なドラゴンも、私の〈闇の眼〉狙撃なら安全に、確実に、しっかり削れる。
そう、私は傍観者から狙撃手になった。
さてと、今日の獲物を探そうかな。
いつものように木に登り、私は〈眼力強化〉レベル4×2を発動させる。〈マナ感知〉とセットで周辺を探索し、程なくターゲットを発見。
体長十メートルはあろうかという大きなウサギだ。
わぁ、ふわふわで可愛い……。
でも私はこれまでも色々な可愛い神獣を食べてきた。容赦はしないよ。
ただ、気になるのは向こうのステータスが見られないってこと。分かるのは【古玖裏魔兎】という種族名だけ。つまりあっちの方が生命力は上だ。
けどまあ、大丈夫でしょ。
今までだってステータス不明の奴を狙ってきたし、ウサギだし。別に逃げられたっていいや。ポイントはもらえる。
よし! 攻撃開始!
ウサギの背中に闇のモヤモヤを出現させる。
と次の瞬間、大兎はギュンッ! とこちらを見た。
え? あれ、間違いなく私を捉えてない?
あいつ、〈マナ感知〉が高……、こ! こっちに走ってくる! すごい速さで!
ズズン――……!
登っていた木が倒れる。慌てて私は飛び下りた。
……信じられない、このウサギ。
結構な巨木を殴り倒した!
大兎は後ろ脚で立ち上がり、ファイティングポーズ。
くそ、こんな神獣がいるなんて聞いてない。
スピードは向こうが上。私も上げないと!
〈敏捷強化〉レベル2×5!
以前は二十回かけたけど、検証の結果、五回以上はあまり変わらないことが判明した。つまり限界まで上昇させた。
奴は近接型!
距離を詰めさせずに〈闇の眼〉で削り続ける!
ところが、ウサギは手の中に火球を作り、押し出すように発射。
私は避けられず、肩付近に被弾する。地面に転がっている合間に、相手はもう目の前まで。蹴り飛ばされた私は樹木に叩きつけられた。
ヤバ……! こいつめっちゃ強い……!
今の一連の攻撃でかなり生命力を持っていかれた!
このままじゃ殺され……。
「愛――――衣――――っ!」
その声は空から降ってきた。
お読みいただき、有難うございます。