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ギジテンこぼれ話  作者: 霜月昴
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シズクの話

 八百万(ヤオヨロズ)という神の一柱になっても、來軌(らいき)君はあたしの所によく遊びに来てくれた。というか照れ屋だから、あたしが呼んだ時だけだけど。面倒だ暇じゃないと言ってても、最後は絶対来てくれる。

 一人で居るより、來軌君と居るほうが楽しい。近況報告したり、花の咲く時季にはちょっと出かけたり。一応神様として、周りの環境を整えたり悩みを聞いたり。時々は、夕楊(せきよう)さんも来てくれる。あたしも会いに行く。

 今日も來軌君が明神池に来てくれていて、静かで他愛もない時間を過ごしていた時だ。あたしが煎れたお茶を一口飲んだ來軌君が素直に「美味しい」と言ってくれて・・・・・。


 何故か、いきなり涙が零れた。


「・・・・ッ!!!? え、オイ・・・!」

 あたふたと來軌君が慌てたように手を宙で動かし、言葉を詰まらせた時に自分でも気が付いた。

「・・・あれ?」

 頬に涙が伝っていた。静かに一筋だけ涙が流れていて、手の甲で拭うと何も無かったかのように涙は消えた。

 來軌君は心配そうに不思議そうにあたしを見ている。あたしもきっと不思議そうに目を見開いていた。

 何が悲しかったわけでもない。辛かったわけでも、泣くほど感情が高ぶったわけでもない。でも涙が零れていた。

 何故だろう。

 しばらく考えて。一つだけ、心当たりがあった。


 來軌君と一緒に話して笑っているうちに、今はもう消えてしまった友だちのことを思い出したからだ。




     * * * * *




 明神池には、もともと二人の水神がいた。

 磁場の乱れによって人も動物も滅多に立ち入ることがないこの池は、力の弱いあやかしにとっては快適な住処だった。

「シズクー。出来たよ」

 魚を追いかけて遊んでいたシズクは、その呼び声に池から顔を出した。

「はーい。今行くー」

 濡れた髪を掻き上げて、シズクは微笑んだ。水面を手で掻き分けて、すいすいと岸に向かうに連れて味噌の芳しい匂いが届く。なめこ茸の味噌汁だ。

 岸に上がると、鉄鍋の中身を一混ぜしてから椀に中身をよそってシズクに差し出される。

「ありがと。シブキ」

 シズクの友だちであり同じく水神、シブキというあやかしがそこにいた。

「どういたしまして」

 輝く青い髪は短いが後ろ髪の一房だけ紐で結えるほどの長さがある。左眼の下にある泣き黒子は愛嬌を生み、優しい顔立ちの少年―――それがシブキだった。

 本来この二人は食事の必要はない。清純な水で至宝の皿を満たしてさえいれば問題ないのだが、それでもたまに食事をする理由は、シブキの作った料理が美味しいからだ。

 シブキの向かいにある岩に腰掛け、湯気が立つ椀に口をつけたシズクはしみじみと呟いた。

「あぁ、美味しいなぁ。なんであたしにはこの味が出せないんだろう」

「シズクは大雑把だからね。ちょっとしたことでも味にすぐ出る」

 鍋を吊る木の枝を探してきたのも焚き火を起こしたのもシブキだ。なにか手伝おうか、と言ってはみたのだが、遊んでていいよ、が返事だった。シブキは凝り性である。

「む~」

「いいじゃないか、ずっと僕が作るよ」

「あたしだって、作って美味しいって言われたいもん」

「それは・・・・頑張って」

「なんか投げやりだー」

 二人は顔を見合わせてクスクス笑った後、シブキが空を見上げた。真っ青な春の空に白い雲が龍のように細長く空を横切っている。温かな風が二人の頬を撫でた。

「・・・・良い天気だねぇ」

「うん」

 近くに訪れた小鳥が数回さえずり、再びどこかへ飛んでいった。

「今日も来るかな」

「・・・・・晴れているから、来ると思うよ」

 どちらとも無く、浮かない顔になっていた。



 恐る恐る、ゆっくりと、明神池に近づいてくる影があった。

 人間の子供だ。

 怪現象が続くこの明神池は、放置された重苦しい狛犬や本能で解る磁場の乱れによって、めったに人は訪れない。しかし時々、例外が現れる。

 狛犬を恐れず、磁場の影響を受けない体質の子供が時々居る。彼らはこの明神池に、興味半分恐れ半分で訪れるのだ。過去には肝試しだとかで複数でやって来た子たちもいる。

 シズクもシブキも、子供は大好きだった。相手が人間であろうと関係なく、遊ぶ子供達を見て一緒に遊びたいなぁと思った事もある。実際、遊んだ事もある。

 だが二人はあやかしなのだ。

 子供はいつか大人になる。働くようになり、子供の頃の思い出を忘れ、シズクたちの事も忘れていく。

 忘れられたら、シズクもシブキもこの世に居られないのだ。

――――忘れないで。

――――僕たちを覚えていて。

 その場限りの楽しい思い出だけでは、子供達は忘れてしまう。ならば。

 少しだけ、嫌な思い出も作ってやろう。

『うわあぁぁ!』

 先に手を出したのはシブキだった。

 水面を覗き込んだ一人の子供の足を掴み、水中に引きずり込んだ。殺すつもりはない。でも溺れさせて、泣き帰っていく子供の後ろ姿を何度も眺めた。

『何してるのシブキ!?』

 驚いたのはシズクも一緒だった。思いがけないシブキの行動につい責めるような声になった。

 だが、ゆっくり振り返ったシブキの瞳は暗く濡れていた。

『・・・こうしたら、僕たちの事を忘れないと思って』

 そう呟いてポロポロ瞳から水を溢れさせたシブキを見て、シズクも覚悟を決めた。そっとシブキを抱きしめる。

『あたしもやるよ。・・・二人で、やろう』

『・・・・っ』

 シブキはシズクの肩に顔をうずめながら、黙ってうなずいた。


 何度か繰り返すといつしかそれは噂になり、池に近寄る子供は減った。だがまだ稀に、やって来る子供が居るのだ。噂を聞いても、恐れずに。肝を試す為に。

 この少年もそうだった。

「・・・ほらみろ、何もないじゃんか」

 池を覗き込んで、何もないと知ると少年は早口に呟いた。あからさまにホッとして見せた少年に、シズクの良心が痛まないわけがない。

 でも。

 帰ろうと身を翻した少年の足を、そっと掴んだ。少年はぎょっとして振り向く。水中から覗く青白いシズクの顔を見て、少年の顔が引きつった。

「・・・・・う、わあぁぁぁぁぁッ!」

 ツキン、とシズクの胸が痛んだ。子供は好きだ。笑っている姿は見ていて微笑ましい。

 だのに恐怖で引きつった顔しか見られない。涙で歪んだその瞳は、シズクを拒絶している。

 いつもは声などかけないが、思わずシズクは呟いた。

「・・・・・もう、来ないで頂戴」

(そんな顔が見たいんじゃないの)

 泣いて逃げ帰る子供を見送って、姿が見えなくなってもその方向を見続けているシズクの後ろから、シブキが現れた。

「・・・・・・御飯、作ったよ」

「・・・・・・」

 返事もせずに俯くシズクの頭を、シブキは優しく撫でた。

「シズクのせいじゃないよ。・・・・・・・・・仕方ないんだ」

 ポロポロと、俯く瞳から水が溢れた。


 こうやって、シズクとシブキは交互に子供達を溺れさせ脅えさせ、その存在を残してきたのだ。



   * * *



 それから、何年経ったのだろうか。

 子供達は大人になり、明神池に訪れるものは居なくなった。

 それでもシズクとシブキはそこにあった。恐怖を体験した子供達は、大人になっても彼らの事を忘れていないようだ。

「恐れられるのは、寂しいわね・・・・」

 空を見ていたシズクが呟いた。もう随分と、子供達と遊んでいない。子供の姿を見ていない。恐ろしい噂とあいまって、放置された狛犬がむしろ神聖な場として畏れさせ、此処は人間の出入りが極端に減った。

 でも、その方が良いのかも知れないとシズクは思った。こんな寂しい思いをしてまで存在を固持したいと、本心から思うだろうかと最近常に自問していた。

「でも、このままじゃ僕たちはまた忘れられる。また子供、来ないかな・・・」

 そわそわと落ち着かない様子で、シブキは子供を待っていた。

 気が重い、と俯くシズクを労るように、シブキは眉根を下げた。そして思い出した昔話をシズクに語る。

「・・・・金剛(こんごう)天狗(てんぐ)の話を、知っているだろう?」

 突然の話題にシズクは目を丸くした。だが、ゆっくりと頷く。あやかしの間では有名な話だ。思わず空を見上げる。

 シブキもシズクの横で、空を見上げた。

「殺して殺して、殺し尽くして、残虐の限りを尽くし、とある人間の村を滅ぼして神に封印された『鬼天狗』・・・・あやかしで彼を知らない者はない。だからこそ、彼はその存在を揺るがないものにしてる」

「・・・・・・なにが、言いたいの」

「僕たちも、必要に迫られるかも知れないと思っただけさ」

 シズクはシブキを睨んだ。

「あたしは! 絶対そんなことしない!」

 シブキは眼を眇めた。

「きれい事だよ、シズク。そんな事を言っていたら、僕たちが消えるのも時間の問題・・・」

 そこでシブキの言葉が途切れた。

「うわあ、ぁぁぁあああ!」

 そして絶叫が迸った。バッと身を起こしたシズクは、自分の身体を見下ろして震えているシブキを見て、息を呑んだ。

 幽霊のようにうっすらと、シブキの体が透けていたのだ。

「シズク・・・っ、シズク・・・!」

 助けを求めるように悲鳴を上げるシブキに触れる事を、シズクは一瞬躊躇った。

 触れなかったらどうしよう、と恐怖に身を震わせた。シブキが手を伸ばさなかったら、シズクは身を翻したかも知れない。助けを求めるシブキの表情を見て我に返り、シズクも手を伸ばした。

「シブキ!」

 シズクがシブキの手を掴むと、シブキの体が元に戻った。二人で体を震わせながら、抱きしめあって嗚咽を零す。

「怖いよ・・・・っ、僕は、消えたくない・・・・!」

 震えるシブキの肩を、シズクは一晩中抱きしめ続けた。



   * * *



 それからシブキは異常なほど神経質になった。指先が触れるだけでも怯え、一日に何度も自分の身体の存在を確かめた。

「シブキ。・・・・御飯、つくったけど」

 あんまり良い出来映えではない。シズクは躊躇いながらシブキにそれを渡したが、シブキは何の興味もなさそうに受け取り、小さく礼を言うと黙々とそれを食べ始めた。とても味わっているようには見えない。

 最近では、大好きだった料理までしなくなっていた。その鬱ぎようにシズクも心配が尽きない。ただの風で草葉が揺れても過敏に反応し、少し放っておくとぶつぶつと独り言を言っているときもあった。

 それでもシブキが元気になる事を祈って、シズクは根気よく話しかける。池に足をつけて岸辺に二人並んで座った。

「良い天気ね、シブキ」

「・・そうだね」

「ねぇ、お花見に行かない?」

「・・・・・ごめん、遠慮しておくよ」

「・・・・そう」

 残念そうに言葉を途切れさせると、シブキがシズクに手を伸ばした。シズクの手首を掴んで、動かして、何かを確かめている。好きにさせながら、シズクは首をかしげた。

「? どうしたの?」

「・・・・・シズクは、消えないね」

 シブキとは違い、シズクの体が透けた事はまだ一度もない。

「きっと・・・・最後に子供を脅かしたのはシズクだったから・・・・」

 シズクはその言葉にドキリと心臓を跳ねさせた。

 あの後、子供達はめっきり姿を見せなくなった。シズクが「もう来ないで」と声を掛けた事で、本当に子供達は来なくなったのだ。

「子供が来ないと・・・・! 消えてしまう・・・・!」

「シブキ・・・・・」

「消えるのかな・・・・・僕たちは・・・、僕は・・・・!」

 ガタガタと震えだしたシブキを見て、シズクは掴まれていないもう一方の手を伸ばそうとした。

 だがそれが届くより先に、シブキはシズクを押し倒した。背を地面に打ち付けて、シズクの息が詰まる。

「―――ッ!?」

「ねぇ・・・! 一緒に行こうよ、僕たちはずっと一緒だったじゃないか!」

 シブキの手がゆっくりとシズクの細い首に掛かった。ぐっと喉を押さえられてシズクは苦悶の表情になる。決して奮われることのなかったシブキの全力をもってして、シズクの首を締め付けていた。

 苦しそうに手を剥がそうとするシズクには、苦しさのあまり足をばたつかせた。静かな明神池で、水面が激しく揺れる音が響く。

 この叫びは、まるで悲鳴だ。

「僕を忘れないでよシズク・・・、一秒たりとも忘れないで! 僕を消さないでくれ!」

「し・・・・ぶき・・・・・!」

 シズクは朦朧とする意識の中でうっすら瞳を開けた。すぐ上にはシブキの顔がある。

 シブキは泣いていた。シズクの頬に涙が落ちて、つぅっと横に流れていく。

「お願いだよシズク・・・・消えたくない・・・・・っ、独りになりたくないよ・・・・!」

 それはシズクも同じ想いだった。


 これ以上、子供を脅かして嫌われるくらいなら、消えても良いと思った。

 これ以上、シブキが孤独を恐れるのなら、一緒について行くのも良いと思った。


 シズクは諦めて全身の力を抜いた。強ばっていた細い首に、よりいっそうシブキの指が食い込んだ。

 シズクの目には、涙が浮かんだ。最初は苦しさのあまり浮かんだ生理的な涙だったが、こぼれ落ちるそれはシブキの為の涙だった。

(一緒に行ったら、怖くないよ・・・・)

 シズクが、目を閉じようとした、そのとき。

 突如、首の圧迫が無くなった。途端に酸素が身体を廻り、跳ねるようにシズクは咳き込んだ。呼吸を整えながら、何が起こったのかとシブキを窺って、シズクは目を丸く開いた。

「う、うぅ・・・・・あぁ・・・・・っ!」

 シブキは子供のように首を振って後ずさる。震えながら掲げるシブキの両手が、半透明に透けていた。シズクの首をすり抜けた手は、見た目だけではなくその存在が消えかけているのだと証明した。シブキは透明になっていく自分の身体を見下ろしていた。

「シブキ・・・・・! シブキ!」

 涙を零す悲痛な友の姿に、シズクは駆け寄った。だが、触れる事は叶わなかった。何度試しても、シブキの体をすり抜ける。シブキは膝を折ってうずくまった。

「シズク・・・・っ、ごめん、ごめんよ・・・・・っ! 僕は、なんてことを・・・っ」

 ぼろぼろと零す涙を拭っているシブキの身体はどんどん透けていき、薄くなっていく。シズクは歯の奥が震えた。

「待って・・・っ、あたし覚えてるよ。忘れてないよ! 行かないでよシブキ! 行くなら、あたしも・・・っ」

 目に涙を溜めて訴えたシズクを、今度はシブキが留めた。静かに首を振って、透けた手の甲で涙を拭う。

「ごめん・・・! ごめんねシズク・・・・・」

 久しぶりに見たシブキの元の姿に、シズクは胸が締め付けられた。久しぶりに見る穏やかな表情は、背景が透けている状態だった。

「僕は、先に行ってるよ。いつまでも、待ってる。だからうんと後に、おいでよ・・・」

 その間にたくさん練習でもしてさ、とシブキは続けた。視線の先は焚き火のあとを見ている。なんのことか問うまでもない。

「やだ・・・シブキ、まって!」

 どんどん、どんどん透けていく。シブキは軽く手を上げると、微笑んだ。

「また会うときは、御馳走して、くれ・・・」

 ふわり、と光の粒子をきらめかせて天に昇っていく。そうやって一人の水神が、この世界から消えた。

「・・・・っ、シブキぃ―――!!」

 シズクは大粒の涙を零して手を伸ばした。けれど、その手は宙を掻いた。

 最期は静かに、優しく、儚く消えてしまった友を。失って、初めて別れて、シズクは寂しさのあまり悲鳴を上げた。

 泣き続けるシズクの思いに呼応するように、春時雨が降り始めた。



 皮肉にも、そのすぐ後に明神池を訪れた子供が居た。

 シズクは池に近づいた子供を溺れさせた。脅えて泣く子供を見て、シズクも泣いた。そうやって、存在を保ってきた。

(もっともっと、ここに在って、腕を磨いて・・・・・!)

―――そうしたらシブキに会いに行くから。

 そう誓って、シズクは明神池に独りで暮らし始めた。




     * * * * *




 あたしの話を聞き終って、少し躊躇った後、來軌君は優しくあたしの頭を撫でた。

 なんと言えばいいのかわからなかったみたいで、しばらく考えた後、彼は小さな声で呟いた。

「・・・・オレは消えねぇから」

「・・・・・うん」

 その温かい手と言葉と心に、あたしは思わず擦り寄った。泣きそうになって、來軌君にしがみつく。少し驚いた様子だったが、ぎゅっと抱きつくと背中を撫でてくれた。

 そうだよ。あたしは、ここにいる。

「なんだ、その・・・お前、は。そのシブキって奴が、す、好きだったんだな」

 來軌君がなぜか言いにくそうにそう言った。あたしは瞼の裏に焼き付けたシブキから目を離す。目を開けて、真っ直ぐ來軌君に告げた。

「うん。大切な、片割れだった」

 忘れてなんかない。あたしがずっと覚えてる。

 それでもシブキは居なくなった。そして、シブキの話を聞いてくれるひとが出来た。

 いつもならもっと遠慮なく「離れろ」とか言いそうな來軌君が、あたしに気を使っているのか大人しい。そう思うと、なんだか少し、可笑しくなってきた。らしくないよね。いつもはもっと素っ気ないのに。

 優しいところとか、一緒にいると楽しいところとか。きっとそういう些細なところで、あたしはシブキを思い出して胸が締め付けられた。

 思わず涙を零すほどに。

「・・・・・あのね」

「あ? もう大丈夫か?」

 大切なことだから、伝えておかなくちゃ。來軌君の顔を覗き込む。急に覗き込まれて、來軌君は目を丸くして少し後ろに仰け反った。

「あたし、來軌君のことも大好きだよ?」

 それは比べることが出来ないけれど。そもそもこれは比べたりする気持ちじゃない。

 ここにいて良かった。貴方に会えて良かった。

 ねぇ。だから全部にありがとうって思えるよ、シブキ。

「ば・・・・・っ」

 言葉を失って來軌君が顔を赤く染めた。柄にもなく慌てている。言ったら怒るだろうから言わないが、可愛いひとだとあたしは思う。

 照れ屋で、無愛想だけど、優しい。素直じゃないけど、誠実で。必ず約束を守る。

―――オレは消えねぇから。

(・・・・待たせてばかりね、シブキ。怒ってるかな)

 ううん、わかる。そんなことで怒るシブキじゃない。

 大切な仲間が出来たの。いつかシブキにも紹介したいな。そうそう人間のお友達だっているんだから。すごいでしょう。

 話したいこと、たくさんあるよ。

 たぶんまだまだ先になるけど、また会おうねシブキ。



 そのときはあたしが、美味しいお茶、ご馳走するからね。



読んでくださり、ありがとうございました。

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