中編2
私は、ふうと息に力を込めて魔法をひろげた。
攻略対象者を含め、会場には多くの子供がいる。だれもかれも怯えて父母にすがり、泣いていない者のほうが少ないくらいだ。残酷な映像の連続に大人たちの顔からも血の気が失せていた。
〈子供たちに精神耐性をあげたのかい?〉
「うん。ユリアーヌの映像がトラウマの元とかになったら嫌だし。それに無理矢理に見せているお詫びも兼ねて、魅了や支配などの精神魔法に対する耐性も大盤振る舞いしたわ」
〈将来的に役立つこと必須だね。貴族ならば垂涎の耐性だ〉
私は5人に視線を向けた。
「ご結婚おめでとうございます。本当にお似合いの夫婦ですね。ええ、残虐思考がそっくりのお似合いの家族です」
「ユ、ユリアーヌ。母の死因はおまえを産んだせいだと父から聞かされて、だから、だから」
「ち、父に騙されたのよ、私もお兄様も。だから、だから」
兄も姉も自分には罪はないと訴える。
〈謝罪もなく、保身のために弁明だけをするのか。その腐った性根に相応しく父親とおまえたちには、肉体がゆっくりと腐っていく病魔の種をうえてやろう〉
見苦しい兄と姉に対して会場から声が上がる。
「何を今さら言っている!?母の死因が妹のせいだから虐待が許されるとでも!?それに万一そうであっても、母が命がけで残してくれた妹を何故大事にしないのだ!!」
反論したのは会場にいた少年だった。大事そうに腕の中に女の子を抱いている。
「そうだ!母の形見に等しい妹だぞ!どうして大切にしない!?」
別の少年が燃えるような怒りのままに声をあげる。その腰には妹らしき女の子がくっついていた。
「信じられないわ、こんな非道な方だったなんて!婚約のお話はなかったことに!」
兄と同年齢の美しい少女が身をふるわせた。
姉の婚約者だった少年も軽蔑を込めて言った。
「婚約を破棄する。このような残虐な者を妻にはできない!」
私は足止めの魔法を解除した。
人々が動き出す、扉に向かって。
「ロジット伯爵、親戚としての縁は切らせてもらう!」
「私も断固として付き合いは断る!」
「もう招待状を当家に送ってこないでくれ!」
人々は口々に絶縁を宣言して出ていく。
ロジット伯爵の衰退は確実なものだから人々も強気だ。
この王国で絶対の力を所有する貴族院は虚偽を許さない。重い罰をうけることになるだろう。しかも、このスキャンダル。伯爵の爵位の維持も難しいかもしれない。
繋がりのある家として、巻き込まれるなんてことはどの家も御免だろうから。
兄と姉は力を失ってしゃがみ込んでいる。
父は茫然と立ち竦んだ状態で動かない。
義母とヒロインだけが、口汚く私へ罵倒を浴びせかけていた。
「元気ね、これなら貰ったものを返しても平気ね?」
〈受けとるがいい。ユリアーヌを殺した者よ〉
ゴボッと義母が口から血を吐く。
ヒロインが顔を押さえて悲鳴を高くあげ、床を転げまわる。じゅわっと肉の焼けるにおいがした。
「ユリアーヌがうけたものをお返しするわ。ああ、火傷は背中だったけど顔にかえすわね。だって悪役令嬢もいないのにヒロインも必要ないでしょう?」
ヒロインが痛みで呻きながら、憎々しげに私を睨む。
「あなたも転生者だったのね!?」
「やっぱり、あなたもなのね。でも乙女ゲームがなくても世界は存続しているし、むしろ乙女ゲームが始まったほうが世界滅亡の危機だし、なくていいわよ」
彼が魔王になれば、世界が滅ぶ可能性もあるのだから。
〈行こうか?〉
私はフワリと浮きあがった。
彼と違う国に行くのだ。もう、この家にも未練はない。
ロジット伯爵家は貴族としておしまいだ。
「どうぞお幸せに? 幸せになれるものならばね」
生きて苦しむがいい。
貴族としての生き方しかしらない父も兄も姉も、家名の失墜も没落もうけいれることは出来ないだろう。
義母の内臓は、死には直結しないが毎日血を吐くほどの苦痛を与えるだろう。
ヒロインは自慢の美貌が爛れてしまって、残ったのは傲慢な性格だけ。
「さようなら」