いいえ?あなたのことは好きではありません
初投稿なのであまり深く考えずにお読みください。
「婚約者?婚約を解消できるならしたいね」
アリスは部屋の中から聞こえてきた自分の婚約者であるダンテの言葉に、開けようとしていた扉にかけていた手を止めた。
アリスは子爵の家に産まれた娘だった。
姉とアリスの二人姉妹で、父親は戦で名を上げた貴族だった。父親と母親はおおらかな性格で、姉が女だてらに研究好きなのを止めるでもなく見守っているほどだ。
そんな父親には同じ子爵家の親友がいた。それがダンテの父親だった。
ダンテの家はアリスの家とは正反対に男二人の兄弟で、アリス達が幼い頃に父親が「うちは女が二人だから跡継ぎがいないんだよな。お前の息子を一人くれよ」と酒の席で話したところ、「じゃあお前の娘の一人寄越せ」とダンテの父親に返されたことからアリスと姉の婚約者が決まった。なんと軽いやりとりだろうか。仮にも娘の一生に関わることなのだから、もう少し考えて欲しいとアリスは思ったものの、ダンテの家の人達は優しいし家の格も釣り合っている。問題ないかと思って受け入れた。そうしてアリスの姉はダンテの兄の所に嫁ぎ、アリスはダンテを婿入りさせる予定として婚約者同士になったのである。
アリスとダンテは、最初はそこそこ仲が良かったように思う。小さいころは色恋など関係なく一緒に遊んでいたのだ。しかしダンテは育つに連れて元々良かった容姿がさらに磨きがかかり、女性にモテるようになった。14歳を越える頃には段々と男らしさが出てきて、色んな女の子から恋文を貰うようになったのだ。最初は女の子から貰う恋文に照れていたダンテは、そのうち当たり前の物として動じなくなり、そしてモテることに調子に乗ったダンテは女性と遊ぶ事を覚えてしまった。とっかえひっかえ女の子と遊ぶダンテに、周りからの苦情と女の子の恨みの矛先が婚約者であるアリスに向かってきたので最初こそアリスは苦言を提していたが、アリスの事を鬱陶しがるようになっていたダンテの「嫉妬してるのかよ。うるせえな」の一言で、家同士で決められているお茶会以外きっぱり彼に関わるのを止めた。
しかし、関わる事を止めたもののダンテの婚約者であるかぎりトラブルは巻き込まれるし、いい加減この関係をどうにかしたいと思っていたアリスが行動を起こした矢先。ダンテを探していたときに聞こえてきた言葉だった。
「俺の父親の古くからの友人の娘で、俺の事を気に入ったのか婚約者になったんだけど、俺はもっと美人が好みなんだよな」
尚も続いて聞こえてくるダンテの言葉に、普通の令嬢なら傷ついて立ち去っていただろう。
しかし
「では、婚約解消して差し上げます。良かったですね。」
「なっ・・・・なぜここに!」
突然現れた件の婚約者の登場に、ダンテは大いに慌てた。口説いていた最中だったのだろうか。隣にいる可愛らしい女性も目を丸くしていた。
「あなたを探していたのですよ。そうしたらこちらにいらっしゃると聞いて来てみたのですが、丁度私の話をしていたのが聞こえたので、お邪魔かと思いましたが割り込ませていただきました。」
「…なんだよまたお説教かよ」
「いいえ、先ほど言ったように私達の婚約の解消のお話をお伝えしようかと思いまして」
「は…?」
にっこりと微笑むアリスに、ダンテはまるで予想外の事を言われたと言わんばかりにぽかんと口を開けた。
「ですから婚約解消を「お前との婚約は家通しのもので、気軽に解消出来るようなものではないはずだが」
婚約解消に喜ぶと思われたダンテが何故かアリスの言葉を遮ってまで問いかけてきた。
それに少しの疑問があるものの、アリスは「そうですね」と朗らかに答えた。
「それは通常であれば、ですが。
しかし、わたくしの姉が先日研究で成果を上げて国から褒賞をいただきました。それにより家を継ぐのは姉と決定したので、貴方のお兄様であるアルベルト様との婚約は解消。わたくしはアルベルト様に嫁ぐことになりました」
実はそれだけではなく、前々からダンテと婚約解消したいと思っていたアリスはダンテの家族にダンテの行動を逐一伝え、両親にも婚約解消のお許しを得ていた。
ダンテの家族からもダンテに苦言が行っていた筈だが、女遊びとアリスへの態度が全く改善されなかったため、ダンテの行動の謝罪と「あんな馬鹿息子なんていつでも棄ててやっていいからね」との婚約解消の許可を頂いていた。
しかし、ある理由からアリスはダンテとの婚約解消を躊躇っていた。このたび、婚約解消を渋っていた原因が解消したので嬉々としてダンテとの婚約解消に乗り切ったのである。
「お前それでいいのか?俺の事好きなんだろう?」
「いいえ?」
何故か呆然としていたダンテが、とんだ自惚れの言葉をはいた。しかしアリスはにこやかにそれを否定する。
「…でも今まで俺がどんな態度とっていても絶対婚約を解消しようとしていなかったし、俺がお茶会をすっぽかしても毎回お前は来ていたし、家で顔を会わせるたび熱に浮かされたような顔でこちらを見ていただろう?」
ダンテが女の子を約束して婚約者同士の交流として決められていたお茶会をすっぽかし悪びれもせず帰宅すると、家族が「アリスちゃん来てたわよ」と毎回お叱りと共に言われていたが、それについてアリス自身から責められることはなかった。それに、婚約が決まる最初の顔合わせの時だって自分を見て遠くからみてもわかるようなうっとりしたような顔で微笑んだのだ。そしてそれからずっと、たまにダンテの家で顔を合わせたときも同じような顔で自分の事を見ていた。
なのでダンテはアリスが自分の事を好きなのだろうとずっと思っていたのだった。
だからたまに言ってくるお小言も嫉妬からくるものだと思っていたし、どんな態度をとっても婚約解消を口にしないアリスに「そんなにみっともなく足掻いても愛されないのにまだ自分が好きなのか」と鬱陶しく思っていたのだ。
しかし、
「いいえ。それは貴方のことではなく、クイーンのことを見ていたのですわ」
アリスから発された否定の言葉に、ダンテは思わず間抜けな顔をして繰り返した。
「クイーン…?」
「そうですわ」
クイーンとはダンテの家で飼っている、グレーの艶やかな毛皮と空色の美しい瞳を持つ猫の名前である。
「わたくし、出会ったときからクイーンに心奪われてしまっていたので、毎回貴方がお茶会を欠席のも気にならなくて。」
そう、アリスがダンテとの婚約解消を渋っていた理由もクイーンの事があったからだった。
アリスがダンテと婚約解消すると、クイーンに会えなくなる。ダンテとの結婚も嫌だが、婚約解消してクイーンに会えなくなるのはもっと嫌だったのだ。
初めての顔合わせでアリスが蕩けるような笑顔を見せたのはダンテを好ましく思ったからではなくその腕のなかにいたクイーンに一目惚れしたからであるし、たまにダンテに会って笑顔なのはダンテの肩に乗っていたクイーンを見たからだし、お茶会をすっぽかして怒らなかったのはその分クイーンとイチャイチャできて充実していたのでむしろダンテグッジョブと思っていたからなのだ。
それを伝えるとダンテは茫然としていた。
「元々、貴方と結婚してもクイーンはそちらのお家に留まるので寂しく思っていたのです。しかし完全にクイーンとの縁が切れるよりはと我慢していましたが、アルベルト様と結婚すればクイーンと暮らせますもの!」
アルベルトとはダンテがすっぽかしていたお茶会でダンテの代わりに話すことも多かった。アルベルトはダンテほどではないがやはり容姿が整っていて、父親の跡を継ぐために国の軍で働いているものの性格は落ち着いて穏やかだ。アリスとの婚約の話も嫌がっている様子はないし、きっとアルベルトとなら上手くいくだろう。
私との婚約を嫌がっていたダンテも喜んでいるだろうとアリスが見ると、何故かダンテは大きなダメージを負ったかのような有り様になっていた。
その有り様に疑問を感じるものの、アリスは構わず続けた。
「そうそう。前からわたくしが貴方を好きかのような発言を仰っていましたが、誤解ですわ。
昔の貴方のままなら兎も角、約束はすっぽかす、ここ数年婚約者に誕生日にはお祝いの言葉もプレゼントも寄越さない、パーティーエスコートの義務も果たさないで婚約者の目の前で異性といちゃつく、少し苦言を提したら嫉妬故の発言と思われた挙げ句無視される。そんな相手にまだ好意を持っていると思うなんて…有り得ませんわ」
とんだお花畑の頭を持ってらっしゃるのね、とアリスはダンテに止めを刺した。
「では、お話はお伝えしましたしこれで失礼いたしますわね」
そういってアリスは綺麗なカテーシーをしたあと退室していった。
後には燃え尽きて真っ白になったダンテと口説かれていた女性だけが取り残された。
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その後
アリス ダンテと婚約を無事に解消して彼の兄のアルベルトと婚約。猫の話で盛り上がり、良い関係を築いている。
ダンテ アリスと婚約解消して彼女の姉と婚約するかと思われていたが、あまりの素行の悪さにより両家の親達がそれを良しとせずダンテは自分で結婚相手を見つけるよう言われる。
ダンテが口説いていた女性が二人の話を広めたため「顔は良いし遊び相手ならいいけど、真面目に付き合うのはちょっと…」とマトモな話がない。今までアリスに好かれていると思って色々胡座をかいていたツケが回ってきたようだ。
実はアリスが初恋だったが自覚してなかった。婚約解消されて振られてから自覚した。
何年後かにやっと見つかった婚約者の存在により更正して改めてアリスに謝りに行った。
アリスの姉 やったー!沢山研究するぞやっほーい!
カテーシーではなくてカーテシーだったことは皆さんの胸にしまっておいてください。
そのうち修正します。




