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8話

本日2回目の更新です。

両親の到着はもうしばらくかかるとお兄様から教えてもらったので、番様を誘って街に行くことにしました。

この宮殿を中心に街は栄えていますが、特に栄えているのが宮殿の裏門側です。

宮殿には東西南北に門があり、東の正門は馬車同士がすれ違うことができるほど大きな道が通っており、高貴な方々が使用するためのものです。

街の外観も厳しく定められていて、王家御用達の老舗や国外の有名なお店など高級感漂う地区になっています。

また、陽が昇る方向にあるので、暁光(ぎょうこう)の街とも呼ばれています。

逆に、西の裏門は宮殿で働く者たちが使用しており、食材などの搬入にも使われているそうです。

そのため、裏門側は様々な商人たちが居着くようになり、今では庶民たちで賑わう店が多く並びます。

こちらは陽が沈む方向にあり、特に賑わうのが夕方のため、夕暉(せっき)の街と呼んでいます。

わたくしも買い物するときはここに足を運んでいて、それなりに詳しいのですよ。


「番様はどんな服でも着こなしてしまうのですね」


夜会で着ていた礼服より、一段と質素な装いをされている番様。

高貴なお方で見目も麗しいはずですのに、今は野暮ったく見え、印象がだいぶ違います。


「竜宮から抜け出して、お忍びするのは慣れているからな」


「ひょっとして、何かお力を使われていますか?」


神の血族とされる竜族には、時折、不思議な力を授かる者が生まれます。

それは強い竜族に多く、竜帝一族や四方王(しほうおう)の一族は各代に一人は生まれると言われているようです。


「我が番に隠しごとはしたくないが、『定め』ゆえ、今は秘密だ」


「それならば仕方ありませんね」


『定め』とは、一族に伝わる何か(・・)です。

決して一族以外に言ってはいけないもので、その禁を破れば死あるのみ。聞いた方も一族総出で殺しにかかります。

『定め』は一族を継ぐ者には必ず教えられますが、他は知りたくないと拒否することもできます。

我がクアンヴァリィにも『定め』はありますが、わたくしは幼かったので教えられていませんし、弱いので知りたくないです。

『定め』を守り切れる自信がありませんから。


この番様のお力があれば、安心して逢瀬を楽しめそうです。

番様は誰もが見惚れる美丈夫だと理解していますが、わたくし以外の女性に言い寄られる姿は見たくありませんもの。


「では、行こうか」



◆◆◆


裏門から出て、お店が集まっている場所へと向かうことにしました。

徐々に人通りが多くなり、呼び込みや行き交う人々の声で賑わっています。

その賑わいもあって、会話をするために自然と番様との距離が近づき、わたくしが人とぶつからないように腰に手を回してきたときには胸が高鳴りました。


「かなり賑わっているな」


「竜の国の街も同じではありませんか?」


竜の国にいたときには屋敷から出たことがなく、わたくしは街の様子は知らないのですが、人の営みとはどこも同じだと思うのです。


「城の側にこれほど賑わう街があるのが不思議な感覚でな……」


番様の言葉に、あぁと納得しました。

その昔、神に愛されし竜の(むくろ)が山となり、その竜を慕う竜たちが集い、竜の国エストランザになったという伝承があります。神に愛されし竜の弔いを竜帝や皇族が司るため、彼らの住まう竜宮は山の麓より少し高いところに作られているのです。

そして、その山はすべてが聖域のため立ち入ることができず、人々は山を囲うように発展させてきました。

わたくしも、屋敷のお庭から竜宮を見上げたことを思い出しました。

とても高い山なのにそれを感じさせないなだらかな稜線(りょうせん)を描き、その大きさと存在感から壮美な竜宮が小さく見えてしまうほど。

あの山を見ると、いつも得体の知れない何かを感じていました。今でならそれが畏怖からくるものだとわかりますが、幼いわたくしには凄く不気味だったのです。


竜宮の周りには何もないので、人間の国のようにお城の周りに街があることに、番様は戸惑っているようです。


「まぁ、視察で行った街と似ているが、子供がいるのには慣れないな」


竜の国でも賑わっている街は多いようですが、小さな子供が外で遊び回っているのには慣れないようです。

人間や獣人が多く移住している街ならそうでもないのでしょうが、竜族は基本、番と子供を外出させるのをとても嫌がるのです。

側にいられないときは安全な巣にいて欲しいという、竜だったときの名残だと言われています。


「あら、番様だって幼いときに脱走したと仰っていたではないですか。子供はいつだって広いところで遊びたいのですよ」


先日聞かせてもらった番様の幼い頃のやんちゃを思い出して、つい小さく笑ってしまったのをなんとか誤魔化します。


「……なるほど。種族は違えど、子供の言動は似通うものなのか」


真面目な顔をして納得している番様がおかしくて、堪えきれずに声を出して笑ってしまいました。

番様はなぜ笑われているのかわかっていないようで、あどけない表情を見せてくれたのです。本来のお顔でその表情を見たかったと、残念に思ったのは内緒にしておきましょう。


それから、たわいもない会話をしながら街をぶらつき、気になったお店を覗いてたりしていると、行列ができている出店を発見しました。


「今評判のお菓子を売っているお店ですよ」


「食べたことあるのか?」


「いえ、友人から聞いただけですので……」


いつも行列ができ、早いときには昼過ぎになくなってしまうほどの人気ですので、わたくしはまだ食べたことがありません。どんなお菓子なのか、どんな味なのか気にはなっていましたが。

すると、番様はわたくしの手を取り、その行列の最後尾に並んでしまったのです。

若い女の子たちばかりの中、上背のある番様はそれだけでも目立っています。前に並んでいた女の子たちがチラリと番様を見上げ、彼の視線の先にわたくしがいることがわかるとすぐに興味を失ったかのように友達とのおしゃべりに戻りました。

その様子に安心したわたくしは、番様の大きな手をぎゅっと強く握ります。


「ん?」


「ありがとうございます」


憧れていた恋人同士の逢瀬を、こうして叶えてくださったことに対して、わたくしは心を込めてお礼を告げました。


「あ゛ー……」


ほんの一瞬ですが、番様の顔が元に戻り……。


「あの……目が……」


わたくしの見間違いかもしれませんが、番様の目の色が金色になっていたような?


「今のは君が悪い。こんなところでそんな顔しないでくれ」


わたくしが悪いと言われ、謝ろうとしたのに、番様が耳元で小さく『理性がもたない』と囁いたのでそれどころではなくなってしまいました。

わたくしは真っ赤になった顔を隠すためにうつむいたところで、不意に周りの声が聞こえてきました。


「いいなぁ、あんな恋人ほしい」

「ほんと、あれだけ熱烈に愛されてみたいわ」


女の子たちの声だとわかり、ますます顔を上げられなくなりました。

なんというか、とても恥ずかしいです。

そうこうしているうちに順番が回ってきて、お菓子を買ったらこの場から離れることにしました。

出店の周りでお菓子を頬張っている女の子たちの視線が痛いんです!



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