4話
本日2回目の更新です。
わたくしの番様が、竜の国の皇太子であることがわかり驚いていると、会話に入ってくる方がいました。
「お話の途中に失礼する。つまり、彼女は竜の国の貴族令嬢ということでよろしいのでしょうか?」
すっかり忘れていましたが、この国の殿下もいらっしゃいましたね。
身内で盛り上がってしまい、恥ずかしいです。
「この国で言うところの侯爵家で王国軍の将軍といった感じでしょうか?」
北黒王や四方王などと言っても理解できないかもと思うと、ざっくりとした説明になってしまいました。
「では、なぜ平民などと言われていたのだ?」
殿下の言葉に、番様と父が何かを発しています。
何かというか、殺気そのものですね。
「どういうことだ?」
低く唸るような父の声。
わたくしが説明しようと口を開きかけると。
「殿下、こんなところにいらしたのですね」
可愛らしい声に、殿下も番様も父も、ありえないと固まってしまいました。
「シェイラ、殿下方のお話に割って入るなど、何事ですか。はしたないですよ」
そう諌めますが、彼女の方は露骨に表情を歪めます。
貴族の令嬢として、それはいかがなものかと。
「何よ、あんたに言われる筋合いはないわよ。あんたこそ……」
そのまま言葉を飲み込んだ従妹は、顔を赤らめてわたくしの番様を見つめています。
確かに、見惚れるほどの美しさを持つ番様です。
ですが、わたくしの番様です。
従妹が見惚れるなど、気持ちいいものではありません。
「まだお話の途中です。下がりなさい」
「竜の御仁様たちにお会いできるなんて光栄です!シェイラ・エイデンと申します。もしよろしければ、思い出として一曲踊っていただけませんか?」
わたくしのことを無視して、番様に話しかけていきました。
「シェイラ、いい加減にしなさい。貴女は家名に泥を塗るつもりですか?」
「はぁ?平民のあんたには言われたくないんですけど?エイデンの名を名乗れないくせに」
「元より名乗る必要はありません。これ以上、殿下方の前で恥をさらす前に下がりなさい」
いつもなら口答えをしないわたくしが、断固として引かない姿に、従妹も少しばかり驚いているようです。
「お父様に言いつけてやるわよ!」
「お好きにどうぞ」
まるで捨て台詞のように言って、従妹は去っていきました。
「お見苦しいところをお見せしてしまいました。従妹が申し訳ございません」
エイデンの血に連なる者として、お三方に謝罪します。
父はわたくしのせいではないと仰ってくださり、番様と殿下は謝罪を受け入れてくださいました。
やはり、他者の上に立つ者とは、器が大きいものなのですね。
「それで、我が番が平民と思われているのはどういうことだ?」
「わたくしが竜族の血を引いていることを祖父母は誰にも話さなかったのです。ですから……」
「ご歓談中失礼いたします」
またもや説明しようとして邪魔が入りました。
今度は叔父ですか……。
「なんだ」
殿下も不機嫌な様子を隠す素ぶりすら見せません。
叔父がいなくなったら、場所を変えた方がよさそうですね。
「娘が何か失礼をしたそうで、申し訳ございません」
「ちょうどいい。エイデン伯爵、この方をご存じか?」
謝罪に対して何も仰らないということは、殿下、許さないのですね。
まぁ、国賓の前ですし、そう簡単に許しては面目が立ちませんものね。
「いえ、こちらの竜の御仁とは初めてでございます」
父のことを見たことがないと言っていますが、母を嫁にもらう際に挨拶くらいはしているはずですよね?
まさか、挨拶もそこそこに母をかっさらったとか言わないですよね?
「一度だけ、お会いしているはずですが?」
「クアンヴァリィ北黒王当代で、わたくしの父です」
何を言っているんだこいつは?みたいな顔をされていますが、クアンヴァリィの名は知っているでしょうに。
わたくしの養育費はクアンヴァリィの名で出されているのですから。
「何を言っている?お前の父は、どこぞとも知れぬ馬の骨。キャンバリーという名を持っているからには、没落した貴族か何かだろう」
あ、そう来ましたか。
そうですね。竜の国で使われている文字はこちらのものと違いますものね。
でも、貴族なれば竜の国の文字も習っていると祖父から聞いた覚えがあるのですが?
「エイデン、貴様……」
今にも殴りかかりそうな怒気を、かろうじて抑え込んでいる様子の殿下。側近の者に何かを伝えると、叔父に向き合います。
「エイデン伯爵とその夫人、並びに娘は、宮殿で身柄預かりとする」
「は?」
なぜ急にそんなことを言われたのか、理解が追いついていないようです。
なぜでしょうかと、殿下に縋りつく姿はなんだか哀れですね。
「貴様が無知だったせいで、我が国は貴重な御仁を辱めることとなった。その責、償ってもらうぞ」
近衛騎士が叔父を連れていこうとしますが、会場の奥の方で義叔母と従妹の醜い罵声も聞こえてきました。
これだけ醜聞が広まっては、エイデン家ももう終わりではないでしょうか?
「竜の御仁方、クアンヴァリィ嬢、誠に申し訳ない」
殿下が頭を下げられた姿に周囲はざわつきましたが、エイデン伯爵が竜族に何かやらかしたのだろうという囁きが徐々に大きくなっていきます。
「貴殿に非はない。我が番に関しては、すべてエイデンとやらが悪い。そうだろう?」
そうだろうと振られても、わたくしとしては誰が悪いとは言えません。
言ってしまえば、殿下はより重い処罰を叔父たちに与えなくてはいけなくなりますし、場合によっては番様や父が暴走する可能性もありますから。
「クアンヴァリィ嬢、ご両親のお迎えが来られるまで、宮殿に滞在してはどうだろうか?竜の御仁もご一緒にいらっしゃるのだろう?」
竜族の方々は数日この国に滞在されるそうですが、わたくしも一緒ではご迷惑にならないかしら?
「無理にとは言わないが、身分がはっきりした以上は安全のためにも、この宮殿で竜の御仁のお側にいる方がよいと思う」
「それもそうだな。竜族がなんたるかを知らぬ者が多い。我が番に何かあれば、この国が滅びるというのにな」
お父様、そこは頷いていないで諌めてくださいな。
番様と父が言えば、戦になってしまうではないですか。
まぁ、番様の暴走を止めるのもまた、番の役目。
「承知いたしました。ご迷惑をおかけすると思いますが、お世話になります」
「では、残りの夜会を楽しんでくれ。詳しい話は明日にしよう」
殿下は王家の者らしく、美しい礼をしたあと、挨拶周りへと戻られたようです。
お忙しいでしょうに、我が家の問題に巻き込んでしまって、本当に申し訳ないです。
「さて、我々も行こう。皆に我が番を紹介せねばな」
というわけで、竜の渡りでいらしていた竜族の方々にご挨拶させていただきました。
竜族の皇太子の番が見つかったとあり、皆様快く受け入れてくださいました。
「真っ先に殿下の番様が見つかったんだ、私たちも番と出会える気がしてきた」
そう、ここにいらっしゃる方々は、まだ番が見つかっていないのです。
竜の渡りとは、竜の国で番を見つけることができなかった竜族が、各国を回って番を探すことなのです。
比較的頻繁に行われていますが、竜族です。よくて五、六年ごとで、十年以上空くこともざらだそうで。
「えぇ。皆様にも、素敵な番様が見つかりますわ」
結局、この場では番は見つからなかったみたいですが、数日をかけて国内を回りますし、まだまだ他の国もありますからね。