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10話

本日2回目の更新です。

番様とのお出かけはとても楽しく、それだけではなく、朝も昼も夜もともにいて、互いのことを語り合いました。

お庭を散歩したり、図書館で好きな本を薦め合ったり、幼い頃とは違った幸せがそこにはありました。


竜の渡りでこの国に来られていた竜族たちは、お兄様たちに守られながらも、夜会に参加したり、市井に出たりして、積極的に己の番を探しています。

この国との外交はアルヴァレジィ当代様がなさってくれているので、わたくしたちは誰に邪魔されることなく過ごすことができました。


あの夜会から三日後。竜の国から父が母たちを連れて戻ってきたのです。


「エレノアッ!!」


わたくしの姿を見るやいなや、駆け寄って抱きしめてくれた母。

懐かしい匂いに、自然と涙がこぼれます。


「お母様……」


「ごめんなさい、エレノア……。わたしは、母失格です。わたしはエレノアを手放すつもりはまったくなかったのに……気づかなくて……」


「お母様。お母様が望んでいなかったことはわかっています。それに、わたくしはお祖父様にもお祖母様にも愛してもらいました」


祖父母からは孫という以上に、母に与えたかった愛情も一緒に与えてもらいました。


「お母様が悪いのではありません。帰りたいと言えば、お祖父様はお父様へ連絡したと思います。ただ、わたくしが望まなかったのです」


お祖母様が病気になり、お祖父様も跡継ぎのことなど心労の種は山ほどあったのでしょう。そんな祖父母を置いていくことはしたくなかったのです。

たくさんもらった愛情を少しでもお返しすることができればと、お祖母様の看病をし、お祖父様の手伝いをしていました。


「お祖父様とお祖母様は、お母様のことを愛していると」


頼まれた最期の言葉を伝えると、母は泣き崩れてしまいました。

わたくしでは支えることができないので、父に助けを求めましたが、父の片腕には小さな男の子がいました。

父は子供を抱いていようと、空いているもう片方の腕で母を抱き寄せたのです。


「初めまして。あなたの姉のエレノアよ」


弟の姿を見ることなく祖父母のもとへ向かったので、ようやく弟とのご対面です。

弟は親指をしゃぶりながら、きょとんとした目でわたくしを見つめています。

わたくしは母に似て、というか祖母に似ており、弟は父に似ています。髪の色も目の色も父と同じです。


「名はマルコスだ」


父が弟の名を教えてくれました。

名を呼ばれたからか、弟は父を仰ぎ見ましたが、すぐにわたくしへと視線を戻します。


「ちびちび、ねーねだぞ。ねーね」


わたくしたちがいる場所にお父様たちを案内したお兄様が、弟に面白がって言葉を教えます。

というか、わたくしがちびちゃんで、弟はちびちび呼びってどうかと思います。

ねーねを連呼するお兄様がうざかったのか、弟は指をしゃぶっていた方の手で、お兄様の顔をぺちぺち叩き始めました。


「うげっ……よだれがついてんじゃねーか!」


どうやら、弟の手はよだれまみれだったようで、お兄様はある程度叩かれてから弟と距離を取りました。

ちゃんと叩かれてあげているので、子供には優しい人なんです。


「お父様、抱っこしてもいいですか?」


「あぁ」


弟は、父の腕から譲り受けるときにむずがる様子を見せましたが、わたくしに抱かれるとしきりに匂いを嗅ぎ始めます。

くんくんとわたくしの胸元に顔をつけ、匂いでわたくしが血縁者とわかると、にぱっと笑顔を見せてくれました。


「ねぇね!」


幼い竜族は本能が強く、自分を庇護する相手を見抜くと聞きますが、どうやら無事に弟に姉だと認めてもらえたようです。


「マルコス、あなたのねーねですよ」


そう言って身体ごと揺らせば、弟はきゃらきゃらと笑ってくれます。

そして、手を伸ばしてわたくしの髪を掴むと――。


「いたっ……」


力強く引っ張られ、その痛みで危うく弟を落としそうになるところでした。

子供の遠慮ない力の強さは、人間より頑丈なわたくしでも酷く痛んだので、人間だったら髪の毛が抜けていたかもしれません。

番様が後ろから支えてくれたので弟は無事ですが、番様から放たれる何かによって、弟の目にはみるみるうちに涙が溜まり……。


「ゔあ゛ぁぁぁぁ――」


大きな声で泣き出す弟。

番様を大人げないと責めるわけにもいかないですし、幼い弟にはどうして殺気を向けられたのか理解できないでしょう。

母は弟の泣き声で冷静さを取り戻したようで、困惑しているわたくしから弟を引き受けてくれました。

やはり、母の腕の中が一番安心するのか、弟はぐずる程度になり、親指をしゃぶりながらも母の服をしっかりと握りしめています。


「すまん」


弟に対して殺気を放ってしまったことを反省しているのでしょう。

でも、番を得た竜族ですので、致し方ありません。


「いいえ、支えてくださり助かりました。ありがとうございます」


いまだに離れない腕に笑みがこぼれます。


「落ち着いたのなら、この国の殿下とアルヴァレジィ当代様を呼ぶが?」


お兄様の声で、本来の目的を思い出しました。

母に来てもらったのは、エイデン家をどうするかを決めるためです。


「クアンヴァリィ夫人、いかがか?」


「えぇ、大丈夫です。お願いいたします」


お兄様が部屋から出ていかれると、父はみんなに座るよう促し、そこでわたくしも冷静ではなかったのだとわかりました。

番様と両親を立ったままにさせていたことに気づかなかったのですから。


まずは、殿下とアルヴァレジィ当代様が事の次第を説明してくださったのですが、身内の恥を聞かされ、わたくしもいたたまれなくなりました。


「愚弟がご迷惑をおかけし、申し訳ございません」


母は殿下に向かって頭を下げると、番様にも同様に……いえ、より深く頭を下げたのです。


竜嗣(りゅうし)の君にお願い申しあげます。番であるエレノアを傷つけた者たちですが、どうか、エイデンの血を残すことをお許しください」


竜嗣の君と、竜の国での尊称で番様を呼んだことから、クアンヴァリィ当代の番として言っているのだとわかります。

竜の国では、住まう者にしか許されない尊称があり、竜帝陛下は『竜の君』、皇太子は『竜嗣の君』と呼ばれます。竜族の中でも、『竜』とされるのは陛下お一人だけですから。

母が出した答えなら、わたくしも否はございません。


「番様、わたくしからもお願いいたします。母の望みをお許しください」


本来であれば、竜嗣の君の番を害したと、この国自体が処罰を言いわたされてもおかしくはありません。

番様にも怒りがありましょう。わたくしが番様の立場であれば、王族にも責任を取らせると思います。


「血を残すことは許そう。ただし、あの男ではない、我が番を慈しんでくれた祖父殿の血縁を()えよ」


何代か前のエイデン伯爵が報償として男爵の爵位も与えられており、曾祖父が男爵の爵位と領地の一部を祖父の弟、わたくしの大叔父に与えたと聞いております。

本来であれば、祖父が伯爵位を継いだときに男爵位も継ぐのですが、祖父はそのまま弟に男爵位を任せました。

エイデン家の従属家として祖父に従ってきましたし、大叔父自身、曽祖父と祖父から貴族の資質があると認められているのです。

それによって、爵位の相続が簡単に行えます。

一度、庶民に下りてしまった貴族の子息では手続きが多く、時間がかかりますから。

これも、祖父が巡らせた密計の一つだとしたら、恐ろしく感じます。

祖父は自身が亡くなったあとのことが、どこまで見えていたのでしょうか?

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