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第1章-9 教会本部について

9


 金がない。


まぁ俺たちにゃあいつものことなんだが、今教会に金がないってことだ。


食中毒事件の見舞金もあったし、ローデンに支払う診療費、クスリの代金もあった。



 この街は流通基地であり、また物資集積の拠点として発展した街だ。


だから、近辺の農家は少なく、まだまだ開拓が必要だ。


狩りができそうな森林、自然の恵みを期待できる山岳なども少ない。


もともとがただっ広いだけの荒れ地ばっかで、放牧に適した土地柄でもない。


食料自給率は低く、そのほとんどが流通頼み。


なのでこの街じゃぁ、まさに商人サマサマなのさ。



 金が無ければここはすぐに飢える。


飢えは病を呼び、治安を悪化させる、かーらーのー。


暴動、略奪、鎮圧、死傷者多数ときて、衛生状態悪化のコンボ。



 そしてスラムの都市インフラは最悪だ。


というかこの街のインフラ自体、もともと存在してないからな。



 新興都市の為に古い建物がない。


人が生活を営むための最低限の設備は、自分たちで用意するしかないからだ。


おかげで最初に潤沢な資金を贅沢に使い発展した中心街を除けば、新市街の衛生状態はすこぶる悪い。


 

 俺たちは街の衛生状況悪化の危機を何とかするべく。


最終手段、援助要請(土下座)を行うべく、この街のお偉方のもとへ向かったのだった。



 あーさて、ここはブリングハム央広場前に拠点を構える教会本部である。


この街にはまだ貴族がいない。


もともとただの荒野なので、今だ誰の支配地にもなっていないのだ。



 ブリングハム教会本部最高責任者、司祭様の成金趣味全開で嫌味な程豪華な執務室

(物凄く私情が籠ってるのはご愛敬)にシーナ、セーラ、俺の三人で訪れていた。



「失礼いたします。

 司祭様お忙しいところ、お時間を割いていただき誠にありがとうございます。

 この度は、司祭様に折り入ってお願いの儀があり、参上させて頂きました」



 ブリングハム教会本部・司祭様であるリード・コッドナー

(これでも子爵家の三男らしいぜ)に陳情に来た。



 あ、ダメだな、何がっつーとあれだ。


生理的にムリ!ってやつな。



 まだ40にもなってないだろうに不健康そうなその顔。


脂ぎった肌、いやらしい目つき、薄い頭髪に、たるんだ腹に、二重顎。


俺が天に召されて精霊の仲間入りするまで、相いれないヤツだよこいつは。


何より思い上がったその態度、劣等感の塊の俺には我慢ならん奴だ。



 シーナが拝謁の礼を述べる間も、こいつはふんぞり返って椅子から立ちあがりもしねぇのな……



 司祭様はご立派な高級安楽椅子の、これまた上等な革をケツで磨くという尊いお仕事に邁進しておられるようです。


どうやら不勉強な俺には理解できない程の、大層ご立派な方のようですね?



 こっちに目線も向けやしねぇなと思ってたら、今度はセーラの胸の方をだらしない顔でニヤニヤ見つめてきやがった……ゲス野郎が……



「ふんっ。

 支部のシーナであったか?

 要件は何だ?

 あまり時間も無いのでな、手早く頼むぞ」


「はい、昨日教会の炊き出しにて食中毒が発生致しました。

 すでに終息しております。

 しかしその際、教会支部の物資のほとんどを放出し住民の援助を行いました。

 そのため、今後の教会支部運営の費用が枯渇しております。

 近隣住民への支援を継続していく為。

 支部の運営資金と、物資の援助をお願いにあがりました。

 何卒、恵まれない者達への御慈悲を……」


「ふんっ。

 食中毒?

 それはまた困ったことをしてくれたねぇ。

 キミの責任は重大だな?

 うちも苦しい状況でねぇ、そう援助もできないのだがね。

 ふんっ」



 イラっ……。


こいつ何様だよ……テメーみたいに背贅沢三昧する金じゃねーんだっつーのに。


腐ったとはいえお前も聖職者の端くれだろうが?!


住民の支援のための金だぞ!!


それにだいたいお前の金じゃねーだろうがっ!


住民たちを保護・援助するため集まった寄付金だろ?


その為に商人達が寄付してくれた金だろうがよ。



「まぁ私も敬虔な神の信徒だ。

 迷えるもの達へ援助するにやぶさかではない。

 ないが、だよ?

 少し協力してもらわなきゃいかんことがあるがな」


「ありがとうごさいます。

 司祭様の寛大な処置に心より感謝申し上げます。

 コッドナー司祭様、それで協力の件とは?」


「うむ、たいしたことではない。

 キミの孤児院でアルトリアという子を預かっているね?

 その子は見所があるというではないか?

 そこで、こちらで引き取り教育を与えようと思うのだよ。

 どうだね?

 孤児に与える神の恩寵だ。

 きっとその子も光栄なことだろう」

 


 (ちっ……こいつ何考えてやがる……)



 リアを、俺のリアを稚児として囲い込むつもりか?!


この腐れ外道がっ!!!



 間違いなく、リアの評判を聞いてのことだろう。


それも最悪なほうに。


見た目の評判に食指が動いたのだろう。



 リアはスラムじゃ、いやスラムに限らずこの街、いやこの国でも有数の美少年だ。


いや違うな。


どうみても見た目は絶世の美少女だったな。


まさに傾国の美少女、いや少年だ。


間違いなく国を傾けさせるような魔性の魅力がある。



 現に、スラムの爺婆共の心を鷲掴みしてるからな。


あいつら本気で天使が掃き溜め(スラム)に舞い降りてくださったと信じてやがるからな。


スラムの連中も貧しさで狂って正気じゃあないが、こいつも欲望に狂って正気じゃあねーな。



 状況が見えなくなってる?


いや、まさか?!


仮にも教会の幹部クラスが、それすらわからん程のバカなのか?


だとしたら……こいつ、まじでアタマ沸いてんじゃねぇのか?


お前の財布達(スポンサー)をどうする気だ?!


本気で暴動でも起きたら、商人共は皆首を吊ることになんぞ?!



 リアをさらったら、間違いなくスラムから大暴動が起きる。


こんな街程度、かるく呑み込んじまうぞ?!

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