第1章-7 医師について
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「失礼、調子はどうだい?」
「この度は、誠に申し訳ございませんでした」
被害者にセーラは殊勝な態度で、しっかりとこうべを垂れて謝罪の意を示した。
こう見えてセーラのやつは空気は読める方だ。
むしろ天性の才能がある、生まれながらの女優といっていい。
セーラについては、どうしても評価が厳しくなる身内の俺でさえ舌を巻く。
場の空気を読んで、己に求められる役割を完璧に演じられるという点については、ケチのつけようがない程に素晴らしい。
スラムの医師を連れ被害者を見舞いに来た。
医師ローデンは手際良く患者の処置を終え、煎じたクスリを飲ませた。
患者にしばらくは安静にして置くよう約束させると、俺達はそそくさとお暇した。
休養しても食っていけるだけの生活費として、また慰謝料としての小金はローデンを通して渡して貰った。
被害者が恐縮しないように、また教会へ不満を持たないようにという、この辺りのシーナの気遣いは流石だった。
教会での雑務を手伝う俺は知っている。
スラムでもぐりの医師などと言う、胡散臭いことこの上ないこの男。
もちろん正規の教育を受けてはいないはずだ。
しかし、腕の良さは信頼できた。
腕っ節でなく医術のほうな。
おかげで胡散臭い男ではあるが、ここの住人共の信頼は厚い。
つか、どっちかってーと荒事のウデの方がヤバいはずだ。
何より見た目がヤバい、どこをどう好意的に見てもド極道。
顔には大きな切り傷。火傷の跡らしきものもある。
60近い老齢のはずだが、全くそれを感じさせることのない覇気がある。
首回りのなんかリア2人分はあるんじゃねーのって太さだ。
こんな筋骨逞しい身体付きの奴なんて、スラムのオラついた若い者のなかでもそうはいない。
実際測れないが、ローデンの隣に立つと子供の俺には2メートル越えてんじゃねえ?としか思えない程の圧迫感がある。
御伽噺のオーガーってのはこんな感じだったんじゃないか?
てか、これまんまオーガーだよ。
角が生えてないのがホント惜しい!
うん、間違いない。
年齢相応に髪は真っ白。
そうだな、このオッサン今後は白髪鬼と呼んでやるぜ。
ザンバラに伸ばした白髪を、今日は珍しく後ろで1つにまとめていた。
ああ、そうか。
やけに小綺麗な格好してんなーと思ったら、俺の思い込みだったんだ。
いつもやさぐれザンバラ髪の白髪鬼しか見てなかったが、きっと患者を診療する時はこんなちゃんとした格好してるのかもな。
育ちの良い子であれば、まぁ泣く。
失禁する。
いや声さえ上げることができないんじゃねぇか?
まぁ、ローデンって極道はそんなヤバイ奴なんだよ。




