第5章-2 いつかの誕生日
52
「何が良いんだろうなぁ……」
最近リアとの時間がとれていなかった。
ようやく今日の仕事から解放されて、ベッドに寝転がる。
リズ達関係各位の強硬な反対に合い、今では俺とリアの寝室は別々だ。
一人寝のもの寂しさと、それと引き換えの気楽さを噛みしめながら俺は物思いにふけっていた。
このクソ忙しい最中そんなことを思うのは、来週にはリアの10歳の誕生日だからだ。
そして俺の13歳の誕生日でもある。
孤児の俺達には、実際の誕生日なんて存在しないからな。
俺達が決めた誕生日は、俺とリアが出会った日ってわけさ。
これで晴れて成人扱いとなる俺に、リアのやつはきっとサプライズなプレゼントでも用意してくれてるんだろうから。
まぁ、リアの場合は良い方ばかりにサプライズってわけにはいかねぇんだろうけどもな……
だからさ、俺もそれ相応に喜ばせてやりたいと思うんだ。
やはりここは衣装か?
しかし、リアのやつ色々と拘りが深すぎてな、俺にはよくわかんねー世界に住んでるからな……
そんなことを思う内にまどろみの中、意識が途切れていった。
※※※※※※
今はもう遠い遠い物語の中の記憶。
『お兄ちゃん、今日は早く帰ってきてね』
『ああ、もちろんな!
でっかいバースデーケーキも買ってきてやるから、楽しみにしてろよ!』
『うん……でも、お兄ちゃんが早く帰ってきてくれたら、それだけでいいよ。
今日はワタシ、一人になりたくないよ?』
『ああ、わかってる。
必ず帰るから』
『うん……待ってる』
クソッ、あのクソ社員め!
何がバイトの分際で定時上がりが許されると思った?
立場を弁えろだぁ?!
ふざけんじゃねーっ!
労基署たれ込むぞ、このヤロー!
ケーキを抱え家まで走った。
今日はクリスマス・イブ。
夜10時をまわっていたが、まだまだ人は多い。
邪魔な人並みを掻き分け、ケーキが潰れないよう気をつけて走る。
聖者様と一日違いの理香の誕生日。
おかげでケーキ一つ買うのさえ一苦労だ。
だか、そんなもん知ったこっちゃねえ。
いつだってクリスマスも誕生日も一緒くたにされて、年に一回しか祝ってもらえない理香。
時期が一緒だから。
普通の子なら一年でもっとも楽しみな日が重なってしまい、一度しか楽しめない。
いや、それ以前に俺達は誕生日を祝って貰える程、両親に感心を持たれてはいない。
だから、今日だけは俺が一緒にいてあげなきゃいけない。
俺だけは、アイツが生まれてきてくれたことを肯定してやんなきゃダメだ。
そうじゃないと、悲しすぎるだろう?
ひたすら人並みを掻き分け走る中、ふと気付いた。
対向車のライトで逆光になるなか、横断歩道で佇む女の子。
大型トレーラーが迫っていた。
『あぶねーっ!!』
考える前に、身体は動いてしまった。
気付いたときには、全てはスローモーションに見えていた。
ああ、やっちまった。
俺はいつもこうだ。
すぐに視野が狭くなるんだ。
理香のことばかり考えてたせいで、女の子だとわかった瞬間飛び出していた。
理香の学校の制服だしな……
理香はもう2年もあの制服を着たことなんかないのに。
見間違うはずはないのに。
俺ってバカだよなぁ……
なあ、理香。
お前を一人にしちまってゴメンな。
意識が研ぎ澄まされているのがわかる。
脳味噌がフル回転して仕事してる。
この鮮明な意識のまま、グチャグチャになるのまでは実感したくないなぁ。
ふと、俺が突き飛ばした女の子を見た。
どこか見覚えのある彼女。
ああ、眼鏡と長い三つ編みで気付かなかったけど、お隣の絵梨ちゃんだ。
小さい頃はオレと理香と絵梨ちゃんとで、よく遊んだ中だ。
人見知りな理香の唯一の友達だといっていい。
最近は随分とご無沙汰している。
そうかー。
彼女が無事なら、少しは救われるかなー。
なあ、理香。
お前の友達の無事を祈ってやってくれないか?
こんなバカな兄貴の最後のお願いだ。
なあ理香?
※※※※※※
夢を見た。
まだ小さい頃によく見た夢だ。
久しぶりだな、前世の夢を見るのも。
理香はリアだな、うん、わかりやすい。
あの娘、絵梨ちゃんは無事だろうか?
まさか、助けられなくてオレ無駄死にとか泣きたくなるんですけど。
「おはようございます、アル様。
朝です、清々しい朝ですよ。
早くお目覚めになって、私と朝食をご一緒しませんか?」
お?
リズか?
最近彼女が、毎朝起こしにきてくれるんだよなー。
俺とリアが別室になってからは、朝の弱い俺はリア無しでは起きられない。
さらには、リアも俺程じゃあないが朝は弱い。
うーん、朝から起こしに来てくれる可愛い美少女とか、どこのラブコメですか?
こんなん幸福過ぎて、来週死んじゃうフラグじゃなきゃいいけど。
「ああ、おはよ、絵梨ちゃん」
「っ?!」
「あ、あれ?
俺今なんつった?!」
「……思い出してくれたんですか?
お兄さん……」
え?
呆然とした表情を浮かべた彼女の瞳から、ポツリと光る滴が溢れ落ちた。
「あー、絵梨ちゃん?
もしかして?
お隣の?
子供の頃、よく靴無くして泣いてた?」
「はい……はいっ!」
「んー、そっかー?
おひさー、元気してた?」
「はいっ!
トラックに轢かれたあとは、ずっと元気です!」
「いやいやいや、それはどーなん?
つか、やっぱダメだったかー……
うわー、凹むわー。
なんか、ゴメンな」
「いえ……いいえっ!
私、お兄さんとまた会えて嬉しいんです!」
彼女の笑顔は輝いてた。
目元はまだ赤いし、頬も濡れたままだったけれど。
俺はその笑顔がとても美しい、と感じたのだ。
「ただいま。
リズ」
「はい!
お帰りなさい、お兄さんっ!」
今日まで、俺は彼女を見ていなかった。
俺は今日初めて、彼女という人間に出会ったのだと思う。




