第4章-10 覚悟が必要
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正直リズのことは予想外であった。
辺境伯対策として、またその他の業務を担う為にも街の治安部隊の設立が早急に必要であった。
その教会直属の、いやこれはマズイな。
オレの直属の子飼いの武装集団である、聖リードニウム衛兵団が出来上がったのだ。
この団長として、意外な程の成果を挙げていたからだ。
今まで街の治安上の問題は、全て商人組合の協議という形で処理してきた。
これが今や限界にきたということだ。
ブリングハムは約三千世帯、2万人程の人口を抱える中都市規模の街だ。
ここのとこのリードニウム建設バブルの煽りで、掻き集めた労働者たちが溢れた為、常時4万は下らないまでに人口が増加していた。
周辺の農家、牧畜家、猟師たちを内包した経済圏でいえば、すでに6万人近いはずである。
元々が流通拠点として発展した街だ。
しかも中核は農民ではなく商人達である。
身内は街で生活するが、家の主人とその使用人達は商品の運搬が多く、常時街にいる訳ではない。
その為、住居等のインフラも人口に対して余裕があるわけではなかったのだ。
結果、スラムは拡大。
酔っ払いの喧嘩、スリ、食い逃げ等の治安の悪化を招いている。
当座必要になったのが、警察機構と司法機構だ。
未だ立法については組合の管轄だ、まぁ自治都市の生命線だからな。
行政については、変わらず教会と組合の半々というところだ。
警察、司法のこの2つを商人組合の委託を受け、教会が担うことになったわけだ。
まあ、問題がある度に忙しい商会のお偉方が集まり、長い時間拘束されるのはゴメンだというのはその通りだろう。
さらには、自衛の為の用心棒たちを雇っておくコストも嵩んでいることだろう。
だか、迂闊に過ぎるともいえる。
オレは知っている。
警察権を握るものは、やがて力を得るものだ。
そして、古今東西の歴史書をあらためるまでもなく、警察権を握り実行力を持った者が権力を手にするようになる。
つまり、すでに奴等はオレに跪いたわけだ。
どこまで理解できているかは知らんがね。
オレの私兵として集まった団員数は300名。
スラムにおける10代から20代の若者達である。
街の衛兵団という目新しい職の方が、開拓地の百姓として暮らすよりも魅力的に映ったのだろうが、不憫なことだ。
皆、この街で命を散らすことになるだろうに。
まあ、オレも例外ではないな。
辺境伯との争いを上手く捌ききれなければ、野辺に骸を晒すことになるのは彼らだけではない。
噂に聴く辺境伯の人柄ならばな、腐っても聖職者とはいえ、首謀者をつるし首くらいにはするだろう。
オレにも後がない。
「リズ、訓練の成果はどうだね?」
「はい司祭様。
順調そのものですわ。
既にそこらの傭兵相手ならば、十二分に通用するかと思います」
「では肝心の団員の教育は進んでいるかな?」
「それについては、副団長が進めております」
「ふむ。
アルの担当か?
具体的には?」
「はい。
野犬の群れを統率するには、一つはどちらが上かを実力でわからせること。
二つ目は、シンプルなルールを徹底すること。
それに尽きる、と」
「ほう」
「一つは最初の時点でクリアしているそうです。
よく意味がわかりませんでしたが」
「ああ……
それはそうか。
確か、団員選別の面接者は君だったな。
ならば、不思議はない」
「?
どういうことでしょう?」
「なに、死人が出ず良かったな、ということさ」
「?」
嫋やかな外見に騙されたのだろうが、お気の毒なことだ。
彼女の面接とはつまり、剣術の模擬試合であった。
武器は何であれ許可、そして彼女は自覚はないが超スパルタ式の教え方しかできないのだ。
あれを潜り抜けた団員達に、彼女に抗う意志など残っていようはずがない。
なんせ1人残らず、参ったの一言を言う前にリズの剣で意識を失うまで叩き伏されているのだから。
これでリズにはいっさい悪気などないのである。
「アル様は、団員に禁則事項を遵守するよう定めたとのことです」
「リズ、いや団長よ。
人前では、その呼び方は慎むようにしてくれよ」
「……はい」
気に入らないか……
相変わらず、難しい娘だ。
だが、その辺りの建前だけはどうか守って欲しいものだ。
「して、その禁則事項とは?」
「はい。
1つ、教会の教えに背かないこと
1つ、団の脱退禁止
1つ、勝手に金策すること禁止
1つ、私刑の禁止
1つ、私闘の禁止
の5か条です」
「ふむ、なかなかによくできたものではないか?
ちと、厳しすぎるところもあるが……」
「はい、そしてこれに背いた者は皆天国送りとのことです」
「なっ!
あやつ、流石にやり過ぎなのではないか?
それでは誰もついて来ぬだろうに……」
「いえ、この位はしておかないと、いざという時に役に立たないのだそうです」
うーむ。
これはアルの奴をすこし買いかぶり過ぎていたのかもしれんな……




