表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/58

第1章-5 朝食について

5


 孤児院の朝は早い、日が昇る前に皆が動き出す。



 内陸部の新興都市である、ここ『ブリングハム』に河川はない。


街の各広場へ公共の泉が設置されており、この泉へ水源地から水を引いてきていた。


孤児達の仕事の始まりは、水を運ぶことからだ。



「リア、あまり無理するなよ。

 足りない分は俺が運ぶからな」


「大丈夫。

 私結構力持ちなんだよ、お兄ちゃん」



 リアは同世代の子供たちよりも体が小さい。


こんな小さな体じゃ水瓶1つ抱えるも一苦労だろうに、とっても頑張り屋さんなんだよ。


ああ可愛い。



 爺婆共がやたらめったら土産を持ってくるからな、血色も良く他の子に比べれば栄養状態も良好なはずだが……心配だよな。


今日も俺の天使は、小さな体で頑張って水瓶を運んでいる。


うんしょって小さな掛け声がきこえる。


ああ、この愛くるしい小動物はなんだ?


マイエンジェル、まぢ可愛い。



 最近のリアは大人ぶりたいお年頃のせいか、人前だと俺をアルと名前で呼ぶようになった。


元世界あっちでいえば、まだ小学校低学年だぞ。


もっと甘えてくれればいいのに、つうか甘えさせてやれないこの現実が悪いのか……


貧乏がニクいっ!ってハンカチ噛み締めたくなるな。


いつまでも「お兄ちゃん大好きっ!」って甘えて欲しかったな。


まぁ二人だけのときはお兄ちゃん呼びだしな、ギリ許せるかな。



「いいか、リア。世の兄貴共はな。

 お兄ちゃんって呼んで貰って初めてだなぁ。

 選ばれし真のお兄ちゃんにジョブチェンジするんだ。

 だから恥ずかしがらずにもっと、お兄ちゃん!と呼ぶんだぞ」


「何言ってるのかよくわかんないけど、わかったよ。

 うん、お兄ちゃん!」



 リアと連れ立って、水瓶を頭に乗せて孤児院まで往復する。


水を運べば、次は炊き出しだ。


孤児院の子供たちは50人ほど。


さらには教会近辺の住まいの者達も集まっている。



 大鍋は4つ程使用するが、1度の炊き出しではとても賄えない。


教会近辺はスラムでも最底辺区域、炊事ができる設備のある家などない。


全てこのスラムの教会支部で住人達の生活を支えている。


まき割り、火おこし、調理、配膳、後片付けと孤児達の仕事は多い。


シスター2人だけでは、とてもじゃないが手が足りやしないのだ。



 近所の餓鬼共も集まってくる。


こいつらに仕事を割り振るのがまた大変なのだ。


セーラはバカだからな。


頭使う仕事と人を使う仕事はまず無理だ。


仮にも親代わりの女に、酷い言い様だが仕方がない。



 なんせシーナに後始末を任されるのは、いつも俺なんだ。


放っておくと大変なことになる。


バカには首輪をしっかりつけておかなければならない。


手遅れになって後悔したって後の祭りだ。


こいつは飼い主の義務だぜ。



 教会の暫定最高責任者(ボス)であるシーナから、餓鬼共への指示は俺に一任されていた。


それだけまともに使える奴らが残っていないんだ、この掃き溜めじゃあな。



 セーラにゃまず無理だ。


愛想はいいが、頭お花畑だからな。


シーナはその辺よくわかってる。


流石にシーナは年の功と言うべきか、もちろんその辺を顔に出しゃあしねぇが。


随分と苦労してきたんじゃねえかなと、ひしひしと感じる。



 いやセーラだって悪い奴じゃないんだぜ?


すこぶるお人好しだしな。


ただ思い込みが激しい、そして軽率だ。


事にあたるに、まず行動する、考えたりしない、そんな無駄なことはしない。


ヤツも自分の足りない頭で考える無意味さを、よーく理解している。


その点だけならば立派な賢者だよ。


だがそれ故に、考えもしないで何事も勢いに任せるタイプだ。



 ……あとは……その場の気分?


雰囲気?


フィーリングってやつな。


いい歳こいて、物事をその場の気分で決める奴とかどうよ?オイ。


ま、内容にもよるがね。


世間的には大事なんだけど、ヤツには全然大事じゃないんだ、気分が良ければ毎日エブリデイだってよ。


な?


付き合いきれないだろ?



「きゃあ!誰かーっ!!

 おじさんが、倒れたのっ!!

 ちょっとっ!このジャガイモ切ったの誰よっ!」



 大鍋の一つをかこっている集団から声があがる。



「あれ?

 さっきまでセーラさまが調理場入ってたんじゃなかった?」



 耳を疑った、認めたくないこの現実。


セーラは調理場への出入りを禁止されている。


以前腐ったジャガイモを使ったせいで、食中毒を起こした前科があるからだ。



 ひじょーにマズイ展開だった。


貧民街の住民にゆとりなどない。


働けないものに明日は来ない。


体調を崩せば即、奈落の底へ真っ逆さま。


どうやら最近手綱をゆるめすぎたようだった。



「おいセーラ!

 勝手に調理場入ってんじゃねーぞボケッー!

 どこだコラッー!

 とっとと出てこいやーっ!!」


「やーん。

 アルちゃん、怒っちゃいやぁーん♪」


「ババァが"やーん♪"なんてぶってんじゃねーぞコラーっ!!

 テメェが手入れた鍋全部さっさと捨てっしまえっ!!」



 はぁー……。


仕方ねぇ……飼い主の責務を果たしに行かなきゃな……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ