第4章-9 狂信者
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さて忙しくなってきた。
何しろ教会は武力を持たない、荒事には弱いのである。
建前の上ではな?
「司祭様、こちらがローデン医師にございます」
シーナは傍らに膝まずいている、大柄なイカツイ男を紹介してくれた。
「無理を言ってすまないな、シーナ。
お前も忙しいだろうに」
「いいえ、司祭様。
貴方様はこの街の救世主であられます。
私如きにお気遣い等、無用のことにございます!」
うわぁ……
相変わらず逝っちゃってんなー。
最近は違う意味で。
しばらく前とは、扱いが雲泥の差だな。
どうした、おい?
シーナのオレを見つめる熱い視線が何より怖い。
いやさ、いくらオレが年上趣味だとしても、貴女は範囲外だからね?
いくら美人だからって、さすがに、なぁ?
彼女60歳だっけ?
うーん、ないわー。
「如何されましたか?」
「う、うむ。
ちと、考え事をな?」
「はっ!
申し訳ございません。
私如きが司祭様の尊いお心を邪推するなど、面目次第もございません……」
「い、いや。
よいのだ、気にすることはない」
「はい!
司祭様のお優しさ、感謝致します!」
うーん、オレがスラムの住人を利用した企画をいくつもぶち上げたせいか、最近特にスラムの治安が向上しているのである。
仕事があれば、食っていける。
腹が膨れれば、他人にも優しくできるものだ。
ちなみに最近のオレは、アルの仕事っぷりが良すぎるせいで、いまやスラムでは神の如き扱いを受けているのである。
どうやらアルの奴、所構わずオレを持ち上げまくって恩を売り歩いているらしい。
スラムに仕事を斡旋する度に、オレの差配だと触れ回り。
商人組合でのゴタゴタを周旋する際にも、全てオレの差図だと吹いて回りと。
おかげで最近、オレの株はうなぎ登りなのだ。
やだわ?!
やり過ぎる部下を持つと、この先が怖いわ!
ま、楽なのは確かなんだけどな……
そんなこんながあったせいで、 シーナのオレに対する態度は激変してしまったのだ。
貧しき人々にも平等に救いをもたらす聖職者。
スラムにさえも明日の糧を創出するオレは、すでにリア並みの扱いを受けている。
今回はそいつを利用して、スラムの武闘派達を手駒にしてしまおうと計画したのである。
ローデンという男、すでに60近い老齢であるが、その肉体は全く衰えを見せていない。
こいつにその気があれば、オレなど3秒で縊り殺せそうだ。
正直、こいつの威圧感でチビる寸前のビビリなオレである。
デスクワーカーなめんなよ?
ナイフとフォークより重い物など、ここ10年持ったことないんだぞ!
「君達の協力のおかげで、この街も豊かになりつつある。
まずは感謝しよう。
だが、急激な変化があれば、おのずと歪も生まれてくるものだ。
そこで君たちの力を借りたいのだよ、ふんっ!」
「私たちにできることでしたら、何なりと」
シーナが平伏する。
ローデンもさらに頭を地面へと擦り付ける。
ちょっと引くレベルの恐縮のしようである。
これって……
少しでもコイツらの期待を裏切ってしまったら、オレ殺られちゃうんじゃないの?
いや、今考えるのはやめよう……
「うむ。
君達に頼みたいのは他でもない。
私は今、この街の治安を心配しているのだ。
急激な変化に、街の住民の生活層に多大な変化が起きている。
今、君たちが貧困層から一躍、この街の主役にのし上がってきたようにな」
「滅相もございません。
全ては司祭様のお力によるものかと」
「ふむ、今はいいのだ。
そういうことは置いておきなさい。
実務面としてだよ。
教会には力がない。
これは言葉通りだ。
揉め事を仲裁しようにも、実力の裏付けがない。
今はいい。
だが、辺境伯の圧力に晒された場合には、衆生を救済し得る力を持たないのだ!
緊急の事態が起こらないようにする、それこそ教会の務めだとは理解しているがね。
実際に事が起こってしまえば、我々は無力なのだよ。
我らが救うべき民達が苦難に直面しているのを、呑気に指を咥えて見ていることなどできようかっ?!
少なくともだ!
私にはできない!
例え神の教えに背くとしても、私には看過できないのだよ」
どうだっ?!
決まっただろ?
一晩寝ずに原稿考えてきたんだぞ?
響いてくれよ?
「シーナ、どうだね?
私は間違っているのかもしれない。
だからといって、間違いを恐れて民を見殺しにするような事だけはしたくないのだ」
「は、はい!
司祭様の尊き御心が間違っているはずなどございませんっ!
神も必ずやお認め下さるものと信じております!
いえ、いいえっ!
例え、司祭様の行いを間違いだと断じる輩がいようとて、私共は地獄の底まで付き従い申し上げますっ!!!」
シーナとローデンは感動に咽び泣き、しまいには五体投地までしている。
ヤバイな……
演説が効きすぎたか?
ちょっと、この狂信者達こわすぎるんですけど?
こうして、オレは直属の親衛隊を拵えることに成功したのだった。




