第4章-3 天は二物を与えず
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リズことエリザベス・ヘレフォードとは、彼女が幼少の頃からの付き合いだ。
兄が婿入りした家の末娘で彼女が生まれたことで、ヘレフォード家は婿取りを決断することになったのだ。
ヘレフォード家の不遇は彼女の責ではないが、なんせタイミングが悪過ぎた。
ヘレフォード家にはそれまで男児がおらず、夫人の年齢を考えるとそろそろ養子を検討しなければならなかった。
そんな折の夫人受胎である。否が応にも周囲の期待は高まってしまった。
すわ、待望の男の子かと思えば三人目の女児である。
ヘレフォード子爵の失望は大きかっただろう。
まぁ、おかげでウチの実家はめでたく部屋済みの次男が片付いたわけだから、彼女には借りがあるとも言える。
しかし、そんな境遇にもめげずにリズは素直で一途な子に育った。
リズは生まれつき身体が弱く病気がちだった。
そこで、文官である法服貴族の家としては珍しく、剣の稽古をつけてやっていたようだ。
彼女の素直さとひたむきな一途さは、ここで実を結ぶ。
見る見るうちに剣術の師範が下を巻く程に腕を上げていった。
それに従い彼女の虚弱体質も改善されていた。
まあ、捻くれ者で皮肉屋のオレとしては愚直なガキとしか思えなかったのだが……
己の不利な戦いから逃げ出さず、前を向き続けたその姿勢は好意に値すると思ったのだ。
しかし不運というべきか、リズが剣術の才を発揮する程に周囲の絶望は深くなる。
これが男児であったのならば、王宮勤めの騎士として出世の道も開けたのだろうが、いかんせん女の身である。
なれば家門の栄達には程遠く、家の隆盛はいかに上位の貴族と縁組できるかにかかっている。
境遇は不便なものだが、神も哀れに思し召されたのか、彼女は容姿にも恵まれていた。
当然、剣術などと役に立つどころか、淑女として脚を引っ張られかねないもの、周囲が全力で捨てさせようとしたのだが、何故かリズは頑として従わない。
「これは、私にとって必要なものです。
いかにお父様のお言い付けとはいえ、従う訳には参りません。
私の意志を曲げられたいと望まれるのであれば、神様のお造りになられたこの世界の終焉までお待ちになって下さいませ」
彼女の返事はいつもこうだ。
折れない意志に、ついには皆が諦めた。
素直で一途という美徳は裏返せば、頑固で融通がきかないということなのだ。
彼女に良縁を結んで貰う為、花嫁修行をさせようと一族は躍起になったらしいが、悲しい現状を突き付けられる。
そう、不器用なのだ。
悲しいほどに。
あれ程巧みに剣は扱えても、空気を読めない。
礼儀作法は完璧、立ち振る舞いも美しい。
しかし、貴族らしい言動ができない。
貴族らしい立ち位置を考えた思考ができない。
致命的だった。
結果、オレの元で片付けてくれということなのだ。
本当に不便な娘ではある。
そう、エリザベスは残念美少女なのだ。




