第4章-2 あの素晴らしき日々をもう一度
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今でも初めて出会った日のときめきを忘れてはいない。
あれはオレがまだ15になったばかり、見習い修行を終えて修道士としてブリングハムに派遣されてきた頃だった。
彼女はいつも明るかった。
彼女が笑うとみんなが笑顔になった。
そう、正に彼女は太陽だったのだ。
陽の光を浴びると天使の輪ができる、艶やかなピンクの髪。
いつも笑っているせいか、細められた瞳の色を見られることは少ないが、彼女の瞳は透き通るような深い青色をしていた。
オレは吸い込まれるように、いつもその瞳を見つめてしまっていた。
出会ったその瞬間から彼女の瞳に心を奪われていた。
「初めまして。
リード君だよね?
アタシはセーラ、まだ見習いの修道女なの。
仲良くして欲しいから、敬語じゃなくてもいいかな?」
「あ、は、はい。
セーラさんは年上なのですから、私など呼び捨てして頂いて構いませんよ」
「うーん。
リード君も敬語はやめてくれると嬉しいかなー?
アタシね、敬語って苦手なの。
だから、ありがとう!」
「い、いえ……
あ、あの。
ありがとう?」
「うん!
あ、でもねー?
リード君?
女の子に年上とか、あんまりハッキリ言うのはどうなのかなー?
お姉さん傷ついたなー?」
「え、え、え?
あ、あのそんなつもりじゃ……」
「うん、わかってるよー?
じゃあリード君!
お詫びにアタシにゴハン!
奢ってもらっちゃおうかなー?
ね?
おねがーい♪」
「あ、ああ、はい!
そんなことで宜しければ!
はい!
喜んで!」
「わーい、ありがとう!
アタシ食いしん坊さんなの。
たくさん食べちゃうかも?
いいかなぁ?」
「はい。
女性は食の細い方も多いですしね。
沢山召し上がって頂いた方が安心します」
「そっかー。
ありがとね、リード君。
優しいんだね♪」
「い、いえ、そんな……」
彼女の天真爛漫さのおかげで、なかなか人と打ち解けにくいオレでも、新しい環境にすぐに馴染むことができたのだ。
いつだって身構えてしまうオレとは違い、彼女はいつだって無防備に他人の懐に飛び込んでくる。
無用心に過ぎるとは思ったが、その心根の優しさからか彼女を嫌う人は少ない。
無邪気で素直、いつだって他人に無条件の信頼を寄せている。
まさに、天使という言葉は彼女にこそ相応しい形容だと思ったものだ。
そんな彼女の優しさに絆されて、いつでもギスギスしていたオレの性格も大分柔らかくなったのかもしれない。
ああ、確かに。
不器用なオレが今こんなに上手くやれているのは、彼女のおかげ以外に考えられないだろう。
そうして歳の近いオレ達は一緒に食事に行く中になり、気の置けない友人同士となったのだ。
「セーラはどうしてシスターになったんだい?
君のような素敵な女性ならば、お誘いだってきっと多かっただろうに」
「もうヤァダー、そんなに褒めたらお姉さん嬉しくなっちゃう!
うふふ、ありがとう、リード君。
ねぇ、ハグしてあげよっか?」
「わ、わ、わ、わ、私はそんな!
あ、いや、か、仮にも神に使える身ですのでっ!
公衆の面前でそういうことはっ?!」
「うん?
やーなの?
そっか、恥ずかしがりやさんなんだね?
リード君かーわーいーいー」
「可愛いとかっ!
そーゆーのは、やめて下さい!」
「あれ?
ゴメンね、リード君怒っちゃったの?
もう、怒っちゃや〜ん」
今思うと、いつもはぐらかされていたのだろう。
彼女は自分の身の上を明かすことを嫌がっていた。
「セーラはどんな男性が好みなんです」
「うん?
どしたのリード君?
珍しいね、君がそんなこと聞くの」
「あ、いえ。
貴女はいつも笑顔が素敵な女性です。
そして、それは誰に対しても変わらない。
それは素晴らしいことだとは思うんですが、貴女の好みはどうなのか?
ふと、気になったのです」
「えへへ。
リード君はいつも私を褒めてくれるから、好きだよー」
瞬間、顔が熱くなる。
止めようにも止められない、そのことが益々心を焦らせ頭の中が沸騰する。
彼女にかかると、オレはいつもこうだ。
無防備ゆえに拒めない。
素直な言葉だからこそ、人より頑丈に出来ているはずのオレの心の障壁が全く役に立たない。
いつでも弱い心を守ろうと必死なオレを嘲笑うかのように、彼女の本音しかない言葉は心の壁を軽やかに飛び越えて来るんだ。
そうしてオレは、彼女に夢中になってしまう。
それなのにわかってしまうんだ。
彼女の心はオレにはない。
それがわかってしまって辛いんだ。
「やはり、セーラには男らしくて、強くたくましい男性がお似合いなのでしょうね……」
今のオレを知る者からしたら失笑ものだろう。
当時はガリガリに痩せていて、力もなく背も低かった。
女に間違われることすらあったくらいに、貧弱なガキだったのだ。
だからだろうか、特に強く男らしい男性に恐怖と嫉妬を頂いていた。
なんせ教会のお偉いさん共に伽をさせられたこともあったくらいだ。
多少の捻くれ加減は、神様でも御許し下されるのではないか?
ゆえに可愛いなどと言う形容はオレには拷問であった。
男らしくない己の容姿をどれ程嫌悪したことか。
そんな見窄らしい己の姿に自信を無くしている中、将来セーラの隣に並ぶ男性はきっと強く逞しいのでは?
などという想像はオレの心にトゲを突き立てた。
「……イヤ。
アタシ、男らしいなんて、イヤ。
そんな言葉は、イヤなの!」
「え……?!」
初めて見る顔だった。
彼女がそんな顔をするなんて、想像もできなかった。
セーラの顔に浮かんだ感情。
それは間違いなく、嫌悪、憎悪。
そう呼ばれる類いの感情だった。




