第4章-1 とかくこの世は世知辛い
4章から、リード司祭の視点のお話になります。
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「それで、ジョン・タルボット氏は何と言っている?」
オレはいつもの執務室の椅子に寄りかかりながらも、報告書から目を離さない。
「はい。
利益の供与の分配について、取り決めが確定しないのならば言うことはないと。
話はそれからだ、と」
まったく、どいつもこいつも金、金、金……
まあ、今まで金を掻き集める才能だけでここまで来た我が身だ。
文句を言っても仕方あるまい。
「わかった。
すぐにでも会合を開こう。
組合に話を通してくれ」
「いえ。
タルボット氏は司祭様とお二人だけでないと話しをしないと……」
「……ちっ、クソが……」
「はい?」
「いや、何でもないよ。
わかった、では会談の席を設けてくれ」
「はっ、畏まりました」
全く人の世は全て面倒事だらけだな。
自分から望んだ事とはいえ、嫌気が差してくる。
たまに全て放り投げたくなったとしても、神様も許してくれるのではないだろうか?
オレの名はリード・コッドナー。
このブリングハムの街の筆頭司祭である。
当年とってピチピチの29歳だ。
オレの歳で司祭にまで成り上がり、さらには新興都市とはいえ1つの街を統べる教会の長を務めるとなると、なかなかの出世頭といえるかもしれない。
例え平等を謳う教会とはいえ、そこは人の世の定めか、当然に組織内には階級がある。
教会に奉仕する神職を務める為、下は10歳辺りから貴族の子弟、裕福な市民の子らが集まってくる。
これらが見習いだ。
次に、15歳になり成人してからは一端の修道士として任官する。
そう、任官だ、所詮はただの宮仕えだ。
まあ、ここまでで脱落する者達も多いのだかな。
3分の1も残れれば良い方ではないかな。
そこからの出世はもはや運頼みでしかない。
これより上に、神父、助祭、司祭、司教、大司教、枢機卿、教皇と位はあれど、みな司祭止まりだ。
つまり、オレはこの歳で一般的な教会権力の中ではほぼ登り詰めた訳だ。
後は裕福な街を任されるだとか、教皇付きの役職を与えられるとかいったポスト争いだろうな。
枢機卿クラスになると、もはや別格だな。
大貴族に匹敵する金と権力を手にすることだろう。
まあ、しがない司祭風情には夢のまた夢。
手掛かりになるとしたら、実家の金やコネがあればかなりマシなのだろうがね。
必要なのは人脈と金、これに尽きるだろう。
さて、そんな出世とは縁がないような、しがない司祭様は大貴族さまの弟君と楽しく御歓談というわけだ。
全く、実家のコネで商会を立ち上げてもらい、利益も上げずにデカイ顔をしている。
御立派なのは態度だけとは、まったく反吐がでるね。
ああ、所詮はオレも貧乏子爵の三男だってことだな。
それも領地を持たない法服貴族だ、つまりは利権と何の縁もないただの貧乏役人の小倅。
おまけに跡取りでもないとくれば、多少捻くれて育つくらいはご愛敬だろう。
テメェのケツすら自分で拭けねぇ大貴族の弟風情がデカイ面してんじゃねぇってことだ。
おっと、つい地が出てしまったな、気をつけておかねば。
全く気の利いた助祭があと2、3人程いてくれたならな……
「ああ、それとなタルボット氏との会談の手筈を整える前に、リズを呼んできてくれないか?
リア達と一緒でも構わない」
「畏まりました」
言われことしかできない凡俗か。
いくら権限を与えられていないとはいえ、現場では己の判断で多少の逸脱行為を為さねばならない時というものがあるのだ。
やり過ぎれば処罰されるが、やるべき時に決行できない者に先は無い。
己に求められている役割を弁え、適度に権限を逸脱できる臨機応変さを要求される。
まったく、宮仕えの辛い所よな。
残念だがこの男に先はないな。
多少の目端が効くのならば、組合の誰に媚びるべきか?
誰を排除しておくべきか?
オレが何を望んでいるのか、推察できていただろうに……
そういえば逸脱できる者といえば、やはりあの小僧か?
シーナの小間使い程度の認識しかなかったが、聞く限りではなかなかに使える者らしい。
調させてみたが、仕事を任せても気の利いた結果を残している。
対面した限りでも打てば響くというか、こちらの問いに目から鼻に抜ける答えを返す。
とても12の童とは思えない程だ。
「ま、多少育ちが悪いのが心配だがな。
アイツを使うのが1番良さそうだ」
精々気張ってくれればいいのだがな。
結果を出すのなら報いるのに何の憂いもない。
それにアイツはセーラさんの養子だと言うではないか?!
何とも小憎らしい気持ちもないではないが、セーラさんの為だ。
アイツが使えるのならば悪いようにはしない。
それなりの役に付けて、着飾らせてもやるさ。
セーラさんの笑顔の為ならばな!
ふんっ!
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