第3章-15 スケールメリットの問題
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「自由市場開放令ですか?」
それは開拓地区リードニウム街の流通道路の石畳化。
街並みの外観イメージを教会色に統一する、などといった施策の打ち合わせ。
そのついでの雑談から始まった。
ハウエルさんは要領を掴めない様子だった。
「今までこの街は各地の交易、流通の中継点でしかなかった。
それはそれで人が集まり、商会も潤ったことでしょう」
「そうですねぇ、ウチも街道の整備から建物の建築の諸々で、それなりには儲けさせていただきましたね」
「はい、今度は次の段階に進みたいと思います。
ハウエルさん、貴方の研鑽のおかげで街は発展しました。
そして、その恩恵を受けこの街は今誰の手もついていないブルーオーシャンとなりました!」
「うーん……?
ちょっと、話が読めませんが?」
「ああ、これは失礼。
つまり今この多数の人口を抱える新興の街。
この巨大な市場が全くの自由だということです。
貴族はいない。
教会は商人組合に頭が上がらない。
そして組合の筆頭は貴方だ」
「ふむ、それはつまり。
税金を吸い上げる貴族はいない。
市場での売買の権利を売り捌く教会は出しゃばらない。
余所者の行商を排除し、既得権益を守ろうとする古い組合の体質とも無縁であると。
そう言うことをおっしゃりたいのでしょうか?」
やはり、この親父食えない奴である。
人の良さそうな顔して、良識ある商人なら口にするのを憚るようなダイブン抉ったことを言う。
しかも本質を掴んでいる。
こいつは仕事がやりやすいな。
「ご察しの通りです。
現在開拓中のリードニウム街は、広大な農地を抱えた教会の荘園です。
生産された作物は教会が消費する分以外は全て、商人組合に独占販売するよう融通しています。
価格も据え置きで、ですよね?」
「はい、ありがたいことです。
教会のご配慮に感謝申し上げます」
「さらに商人組合の利益になる提案があります。
リードニウムに自由市場を建設します。
ここは余所者であろうが、組合に登録していない者であろうが自由に商売を許可する特区にします」
「なんとっ……!
それはまあ、実験的過ぎやしませんか?
反対派も多いのでは?」
「そこでです!
ハウエルさん、貴方のご協力を頂きたい!」
「私に協力できるものなら、勿論構いませんが……
さて?
組合にどのような利益があるのでしょう?」
「この街は新しい、故に既得権益などはない。
いーや、あるよと思っているような商会はすぐ廃れるので気にする程のことはありません。
で、本題ですが。
ああ、その前に。
この果実酒は実に口当たりが良くて美味しいですね。
流石はハウエル商会さん、良い物を取り扱っておられる。
しかし、贅沢を言えばもっと沢山飲みたいものですが……
そうなると、このカップでは小さ過ぎますかねぇ?」
「ふむ、大きいカップを用意すべきと?
それが市場を開放するということですか?」
「カップが大きくなれば、それだけ取り分は増えるものですよ」
「それを理解できると思われますか?」
「自由な市場は巨大化します。
人と物が増え競争になります。
取引量が増え、物の価格は下がる。
皆が今まで買えなかった物も買えるようになる。
そうなれば更に人も物も競争も増えるでしょう。
そうなると、食事所や宿や娼館など。
街道整備や馬車、新しい住居、開拓すべき土地。
そういった需要が爆発します。
その頃にはちょうど都合良く、労働力としての流民も入ってくることでしょう。
街の器が大きくなれば、全てが加速します。
そこからもたらされるのは組織の巨大化ですよ。
つまり、今この街2万人の主人である貴方が。
巨大化の波の後で、10万人の主人になるという可能性です。
そして、それは貴方より下の立場の方々に置いても同様なのですよ?」
「これは、何とも気宇壮大な話ですな……」
「私の望みはこの街を富ませることです。
ご協力頂けますか?
ハウエル殿」
ハウエルはオレに無言で握手を求めてきた。
視線に熱が篭る。
漢の目をしていた。
「キャーっ!
何、この胸熱な展開?
え、え、これはやっぱりアレ?
ヤオイ的な?!
お兄ちゃん、受け的な?!
キャーっ!
ワタシもお兄ちゃんのお尻せーめーたーいー!」
リアはすでに腐ってしまっていたようだった。




