第3章-13 覚悟の問題
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「やはり水路が欲しいですね」
「うむ。
今後の開発を考えればな」
「水道技術者は借りられますか?」
「いや、これ以上は難しいな」
「では石工はどうでしょう?」
「うん?
それならばまあ、斡旋してもらえるだろうな」
「ならば司祭様の荘園の都市計画を行いましょう!
名付けて、"リードニウム計画"というのはいかがでしょう?!
まさに司祭様の為の新しい街、それにふさわしい名ではないですか?!」
「アルっ!
滅多なことは言うものではない。
ここは教会所有の荘園だぞ!
誰か聞いているかわからんのに、少々迂闊だぞ。
そもそも、この開拓は教会としての本分を全うするためのものだ。
決して、私の利権の為などではない!」
「むしろ、こんな胡乱なことを誰かが聞いてくれてた方が良いんですけどねぇ……」
「ふん……
どう言うつもりだ」
「司祭様には野心がある、そう思って貰った方が彼等と交渉がし易いということです」
「ほう……?
考えを聴こう」
「彼等の信念は金です。
主義も主張もありません。
それこそが彼等の信仰心です。
彼等が何より取引に置いて信用を大事にするのは、それこそが金を呼び込む祈りに他ならないと理解しているからです」
「彼等の神が金であると?
そして、祈りは信用を得ることか?」
「はい。
ですから彼等は信用を損ねる事を、何よりも恐れます」
「続けなさい」
「彼等の信仰に理解を寄せ、信用を得ようとするならば。
こちらも同じく、金や利権に執着し俗世間に染まってみせることです。
司祭様は、彼等が取引を敬遠したい相手とはどんな相手だと思われますか?」
「約束を守らない相手だろうな。
借財を踏み倒す、無法な貴族のようにな」
「確かに、それも一つです。
ですが、もっとも忌避する相手がいます。
それは金に靡かない理想論者ですよ」
「そこまでのものかね?
まだ権力を傘に、無理を通す貴族の方が害があるようにおもえるがな?」
「人は己と異質なもの達と通じ合うことはできません。
実利主義、徹底した現実主義の商人にとっては、最悪の相手こそが理想論者です。
人は同じ背景、文化、境遇、価値観、そういったものでしっかりとつながることでこそ安心できるのです。
もし、司祭様が崇高な理念を掲げ、神の教えの元、人々の救済に力を貸してくれ等とぶったところでね。
彼らは嘲笑するしかない。
理想を語るのは良いことです。
しかし、現実を見ず、理想と現実のバランスをとり折り合っていくことのできない夢想家に用はありませんよ。
なぜならそんな相手は彼等にとって、言葉の通じないサルのようなものでしかないから。
彼等の信仰を理解しない輩等、その程度のものですよ。
取引相手として対等に扱う輩ではありえない」
「そうだな……
ここで試されているのは、私の覚悟だということかね?」
「……ですぎました。
申し訳ありません」
「いや、かまわない。
そうだな……
私に必要なものは、俗物であると彼等に証明してみせることだ。
そして、俗物と揶揄され蔑視される覚悟をもつことなのだな……
私の理想を実現したいと真に望むのならば、人の評判など犬にでも喰わせてしまえ、か?
はははははははっ!
これはまた痛快なことだっ!」
しばらくお互い無言になる。
しかし、これは俺が言っておかねばならないことだろう。
これから、この手の耳に痛い言葉を司祭様に進言するものはいなくなるだろうから。




