第3章-12 隣の芝生の問題
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「問題はこの痩せた土地ですよねぇ」
「そうだな。
だが、ジャガイモ程度なら痩せた土地でも問題はない」
「そうですね、ジャガイモはいい。
踏み荒らされると収穫が著しく減少する麦と違い、戦争に強い。
踏み荒られても収穫に影響が少ないですから」
「そうだな、騒乱があっても復興もはやくなるだろう。
収穫に支障をきたさないということは、民の生活が荒れないということ。
つまり、治安の維持に繋がる。
外壁を持たないこの街には、正にうってつけの作物だろう」
「また麦だと収穫に2年近くかかりますからね。
ジャガイモなら2~3回は収穫できるのもいい。
何より住民へのアピールに即効性があるのがいい。
教会のご高説はご最もですが、庶民に一番効くのは現世ご利益ですからね」
「君は少し正直すぎるな。
確かに、言葉だけの褒賞を喜ぶのは富裕層だけだろうがな。
ふんっ」
「スラムの労働者を開拓民として使うのは思い切りましたね?
商人組合からの抵抗があったのでは?」
「確かに、感情的に納得のいかないものはあるのだろうな。
だが実際問題、各商会のお抱えの職人、丁稚などの下働きの者達を使おうにも手が足りないのだ。
ならば、使える者を使うのが合理的だ。
子供とてわかる話だよ」
「仰る通りではあります。
しかし、人の気持ちと言うのは一筋縄ではいきません。
将来有望に見える隣の芝生に、嫉妬心を抱かない者は少ないかと」
「しっかりと鼻薬は嗅がせてあるさ。
ふんっ」
「それならば、これ以上口にするのは失礼かもしれませんが……
今まで下に見ていたスラムの者達が、自分達と同じ土俵に上がってくるということ。
それが今まで自分達こそが街の上位者であると、疑いもしなかった住人達に与える影響を考えると不安が残ります。
人が持つ差別心というのは、司祭様が考えておられるよりも悍ましいものです」
「自分達の利益にも繋がるというのにな!
ふんっ、全く理屈の通らん輩どもだっ!」
「はい、全く同意ではあります。
ですが、どうかお心の片隅にでも留め置いて頂きたく」
「ああ、わかった。
精々気をつけて置くとしよう」
これだけの土地を開拓できているなら、今後食料問題は解決するだろう。
もし紛争、戦争で街の流通に支障をきたしたとしても、住人が飢えて治安が悪化する心配も減る。
食料自給率はこの街の一番の弱点だ。
タルボット辺境伯が横やりを入れてくるにしても、まずここから攻めてくるのは間違いない。
その点でまず、この街郊外の荒野の開拓に目をつけたこと。
痩せた土地柄を考え、ジャガイモの種付けに専念したことなどはリード司祭の慧眼といえるだろう。
何より計画だけに終わらず、実際に実現するまでに漕ぎ着けたその手腕と強い意志は見事と言う他ない。
何事も口にの上手い奴は多いものだがな。
スラムの住人が人を選ぶ基準は一つだけだ。
そいつが何を言ったかじゃない、何を実行したかだ。
どんな美辞麗句を並べたてようが、素晴らしい理想論をぶち上げようが、そんなことには何の益もない。
どうしようもない程のクズでゲスな最低野朗であったとしても、間違い無く結果を出している者だけが信頼に値するのだ。
その点、この男は信頼できる立派な漢だったって話しさ。
俺はこの司祭様に、当面の俺達の人生を賭けることにしたのだった。




