第3章-11 開拓の問題
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ブリングハム郊外に、これだけの土地を耕筰していたことに驚きをかくせなかった。
ここは水の利便性に欠けている、また土地も痩せている。
利点といえば土地が平坦なこと、森林が少ないことだろうか。
土地を肥えさせさえすれば、広大な農耕地帯ができあがるはずだった。
「将来この農地だけでブリングハムの街の胃袋を満たすつもりだ」
「商人組合は、この事について理解を示しているのですか?
食料輸入の利益を損なうことの反感があるのでは?」
「教会の影響力は大きい。
だが、その成り立ちからして世の騒乱を治める武力を持たん。
故に互いの利益の反する組織とも談合し合うことで、共に利益を享受するやり方を磨いてきたのだよ。
相手を絡めとり、共通の敵を持ち、利益目標を共有する。
いわば一蓮托生。
同じ釜の飯を食う仲になれば、自ずと共存の道が図れるだろう?」
「まさに仲良き事は美しきかな、というわけですか」
「王侯や貴族達は力を求め、争いの抑止力を持つことで栄え。
商人は金を求め、人の繋がりを得ることで栄え。
そして教会は権威を求め、人心収攬することで栄える。
お互いの理を犯しさえしなければ、共に栄えるのもそう難しくはあるまい?
そうは思わないかね?」
正直、見くびっていた、ただの豚だと思っていたよ。
ああ、今恥ずべきは己の見る目の無さだな。
この人は、俺なんかじゃ到底到達できない視点で物事を語っている。
語る内容は建前に過ぎず、その形を実現できれば理想ともいえるだろう。
だが、悲しいかな。
俺は人間を知っている。
人は己を分を知らない、知ろうとはしない。
妬み、嫉み、それこそが全てになってしまったもの達。
彼らは優れたものが許せないのだ。
輝かしいものを己と同じ、汚泥のなかに引きずり込むこと。
ただそれだけを唯一の愉悦とするような、悍ましいものがあるということ。
己の幸せなど一顧だにしない。
ねじ曲がった感情で動く生き物。
それもまた人だ。
底辺にいる俺だから知っている。
リード・コッドナー、この司祭様の動機などしらない。
ただの出世欲だろうが、自己顕示欲だろうが一向にそんなものはかまわない。
彼の言葉は理想論に過ぎないとも思う。
だけれども、あえてその困難な道に挑む気概があるというのならば。
俺はただ、その力になりたいと思っただけだ。
俺は今日初めて、心から上司に使える気持ちになったのだろう。




