第3章-1 矜持の問題
3章からアル視点に戻ります。
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「アル、もう私達には貴方しかいません。
どうか、リアを説得してもらえないかしら」
珍しく深刻な顔したシーナとセーラだった。
基本的に二人とも笑顔を欠かさない。
それはこの教会での立場をわきまえているということだ。
皆が二人の振る舞いに注目している。
実際の心の内はともかくとして、シスターが不安や心配事を表にだしていてはスラムの住人たちの不安を煽ることになる。
「一体どうしたってんだよ。
似合わないぜ、アンタ達がそんな湿気た面してんのはさ。
わかってるはずだろう?」
「アルちゃん、お願い!
リア様を説得して!」
「とりあえずさ、話が全然みえねぇよ。
事情を話してみろよ」
「そうでしたね、私としたことが……
ごめんなさい、アルにはまだ事情を伝えてはいなかったわね。
つまりはね、………………というわけなの」
…………フーーーーーっ。
ま、言いたいことは山程あるがね。
まずはお嬢様方の思い上がりに釘を刺しとくかね。
「お前ら、何勝手に突っ走ってんだよ。
リアが怒んのも当たり前だろうがっ、馬鹿どもがよ!
あん?!
お前らいい歳しやがって、そんな当たり前のこともわかってなかったのかよ?」
「えっ?!
ちょっ……アルちゃん、ちょっと落ち着いて!
どうしたのいきなり?!」
「どーしたも、こーしたもねーだろうがよっ!
はっ?!
いきなりじゃねーだろがっ!
ンなこと言われて怒らねー奴の方がめずらしいわっ!!
あ?
なんだぁ?
お前は聖女様だぁ?
選ばれました、はい、皆にご奉仕よろしくねっ?!
あ、あと自由意志とかないから。
は?何わがまま言ってんの?
救われない人々がこんなにあふれてんのよ?
自由があろうがなかろうが、多少窮屈だろうが、知ったこっちゃないからね。
恵まれない人々の為に、滅私奉公して当然でしょ?
これから教会の為に昼夜問わず馬車馬のように働いてね。
あーあと、笑顔忘れないでね。
泣き言とか愚痴とか厳禁だから。
みんなの聖女様のイメージ崩さないでね。
あとねぇ、仲の良いお友達?
んーっ、ちょっと困るのよねーそういうの。
いるのよねぇー。
育ちの悪いお友達ってぇーの?
ほら、こんな感じの?
あー、あーしさぁ、コイツのツレだから。
もうガキの頃からのマブダチだから。
だからさぁ、わっかるよねぇー?
はぁ?!
ちっ!察しのワリィ奴ぁ嫌いよ。
あーしがさぁ、ちょーっとリアに吹き込んだらさー、アンタ。
どうなると思ってんの?
マブダチよ?あたいら。
アイツ何でもあーしの言いなりなんだからさぁ。
そこんとこ汲んでくれないと困んのよねぇ、あーしもさぁ?!
そこは気持ちをさ、お金で表わしてくんないとさぁ?
ね?わっかんでしょーがっ!
……みたいな癒着があっては困りますからね、ってとこかい?」
ここで俺はたっぷりと悪い顔をしてみせた。
バカにでもきちんとわかるように。
はいコレ、悪意たっぷり込めてますよー感を出しながらな。
それらしくゆっくりと拍手なんぞしながらな。
「ふふっ……ハッハッハッハッー。
あのなぁ、いいか?
ふざっけんなよ!!
なぁ、アンタらマジで言ってんのかよソレ?
はっ、臍が茶を沸かすぜっ、はっ!
一昨日きやがれってんだ、あぁん?!
なんだぁ?
意味がわからねぇだぁ?!
いいか、耳かっぽじってよーっく聞けよ。
てめぇらは皆クソッたれだっつってんだよっ!!!
アンタらの気持ちがホントにそんなモンだってんならなぁ……
俺は心底アンタらを見損なうぜ……」
「アル、少し落ち着いて。
貴方少し興奮し過ぎていますよ。
お願いだから冷静になって。
ね、落ち着いて話し合いましょう」
「いやいやいやシーナ、落ち着けもクソもないだろう?
こんな人としてコケにされてなぁ?
落ち着いて話していられるようなボンクラならな、もとから家畜でも奴隷にでもなってブヒブヒ言ってりゃいいんだよ。
そしてな、リアは頭の良い子だ。
こんな舐めたこと言わせたままにしておくような腑抜けでもねぇぜ。
俺が言わなくったってアイツが自分で言うさ。
あぁそうさな、何も言わなかったとすりゃあもっと悪ぃな。
とっとと見切りつけて、ここから出てく算段でもつけてるこったろうさ」
「そんな困りますっ!」
「そう、それな!
お前らの都合で困るだけなのさ。
リアは全く困らねぇよ。
アイツならな、食ってくだけならいくらだってできるだろうからな。
あぁ、確かにな。
借りはあるさ、俺らにはな。
義理も恩も感じてはいるさ、だがな!
アンタらの都合のいい道具に成り下がったつもりはねぇんだよ。
育ててもらった、食わせてもらった。
その恩義は忘れちゃあいねぇよ?
だが勘違いしてもらっちゃあ困んだよ。
俺達は最後の最後で自分の尊厳までは捨てちゃいねぇんだよ。
アンタらがな、そこを勘違いして恵んでやったんだから黙って言うこときけよってんならな。
俺たち野良犬どもだってな、その手を噛みちぎって逃げ出すくらいはするんだぜ。
こっちから飼い犬にしてくれって頼んだわけじゃあねぇ。
気に入らねぇことには逆らって、最後は野垂れぬことを選ぶ自由を捨てたわけじゃないんだ。
そこは忘れてもらっちゃ困るぜ。
スラムのクズ達ってのはな。
多かれ少なかれ、だいたいはこの覚悟で生きてんだよ。
良いとこのお嬢様方にはわかんねぇことだろうからな。
親切な俺がここで教えといてやるよ。
授業料は今までの借りから差っ引いといてやるぜ。
いいか、よーく覚えとけよ。
後で痛い目みないようにな」
「そんな……私達そんなつもりじゃないのよ、アルちゃん」
「そうですよ、アル。
これは間違いなくリア様の為になるのよ。
だから、貴方も冷静になってリア様とお話して欲しいのですよ」
「そんなつもりも、どんなつもりも知りゃあしねぇよ。
いいか、それを決めんのはアンタらじゃねぇ。
だろ?
それはリアにしか決められねぇことだ。
外野が横からグダグダ言ってんなよ。
いいからテメェらはすっこんでろ!」
「そんな……それでは、民は救われないではないですか?
聖女様のご意志がどうであれ、衆生救済は聖女としての義務です!
それとも救われたいと思うことさえ、貴方は許さないとでも言うつもりなのですかっ!!」
シーナが血走った目で俺を見つめる。
まさに視線で人を殺せるものなら俺は逝ってたかもな。
ちょっと驚いたね、何だよ?
シーナ、アンタさぁそんないい顔もできたんだなぁ。
そういう意志の籠った視線は嫌いじゃない。
気迫に満ちた良い目だぜ、それがアンタの背骨ってやつなのかい?
だがな、アンタと同じく俺にも譲れない一線があるんだ。
リア。
アイツを守る為ならば、例え親だろうが神だろうが牙を剥く覚悟だよ。
大恩ある貴女方にも歯向かうつもりだよ。
必ずリアの意志を守り通す、それが俺の義務であり誇りだ。
さぁ、お互いが信じる物の為に鎬を削りあおうぜ。
「民がどうなろうと知ったこっちゃあねぇのさ。
そんなものに興味はないぜ。
だいだいが他人様に救ってもらおうってのがそもそもの間違いなんだよ。
助かりたい奴ぁ、己の力で何とかするもんだ。
自分で自分を救えないヤツは、いつまでたっても救われやしねぇよ。
シーナ、アンタそんなこともわかってなかったのかよ?
よくそれでシスター名乗ってるな?」
「アルトリウス、黙りなさい!
己の不信心を恥じることです。
誰もが貴方の様に強い心を持っているわけではないのですよ。
心弱き者が救われること望むのは、決して責められるべきことではありません。
それは強き心をもつ者の驕りです!」
「そうかい、俺は別にそれはそれでちっとも構やしないけどな。
だが、これだけは言っとくぜ。
弱いヤツは死ぬだけだ。
それの何が悪いんだ?
なあ、教えてくれよ。
どこの誰が救って欲しいって頼んできてるんだよ?
聖女様お願いです、私達を助けてくださいって嘆願書がよ?
アンタのとこにまわってきたのかよ?
自分のことは自分で決める。
己の主は己だ。
その気概すら持たないヤツに本当の救いなんてものがあると、アンタ本気で信じてるのかい?
シーナ、アンタの他人を救いたいって思いは貴重だよ。
確かにご立派だよ、それは認めるさ。
だけどよ、聖女様なら他人を救えると信じるのもまた、それは傲慢さだと俺は思うぜ。
自分で自分を救えもしない弱々しい貴方達を救ってさしあげましょうってな。
ま、俺の好みじゃあねぇや。
俺なら貴方を救ってあげましょう、なーんて上から目線でドヤ顔された日にゃ、唾でも吐きかけて三つ指ついてお断りさせてもらうがね」
シーナはしらばく黙り込んで、俺に鋭い目線を向けていた。
こちらも引くつもりはないと、気持ちを込めて見つめ続ける。
そうしてしばらくしてから、ようやく俺から目線をはずし俯いた。
おもむろに深い溜息をつく。
「はぁ……
アルトリウス、私達は貴方の教育を間違っていたようですね。
ええ、非常に残念です……」
「そんな謙遜すんなよ。
アンタ達は立派に育ててくれたさ。
だからこそ、俺はアンタ達の言うがままに従うお人形さんにならずに済んだんだぜ。
もっと、胸を張って誇るべきだよ。
うん?
あぁ、セーラお前は胸張らなくていいぜ。
すでにお釣りがくるくらいだからな」
「アルちゃん、そんな褒めたらイヤん♪
嬉しいから、ハグしてあげるね!」
「セーラ!
今はそんな話はしていないのよっ!
いい加減にしなさいっ!!!」
「ごめんなさいっ!
ご飯抜きはもうイヤですぅー!」
「シーナさぁ。
とりあえずよ、リアの気持ちは俺が確認しとくからさ。
俺は何であれ、アイツが望むようにしてやりたいだけだから。
特段アンタらの願いをぶち壊したいわけでもねぇしさ。
それが教会の都合に会わなかったのなら、まぁそこは諦めてもらうけど。
お互い縁がなかったってことだろ?
だから、その辺で手を打とうぜ、な?」
「それは平行線ということですか?」
「いや、協力するつもりはあるぜ。
恩義は忘れちゃいねぇよ。
ただ、リアの意志に反することになるなら。
何があったって俺はそれを許さないってことだよ。
これは俺の矜持の問題だ。
こいつは譲れねぇよ」
俺は言うべきことは全て言ったぜ。
あとは、そっちで決めてくれ。
いまだに覚悟ができていないのはそっちだろう?
なあ?
いつもお付き合い下さり、ありがとうございます。
読んでいただけるだけで大変嬉しいです
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