第2章-7 奇跡ですけど
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親愛なるお兄様へ、先立つ不孝をお許し下さい。
リアは一足先に旅立ちます。
来世ではお兄様の幼馴染みヒロインとして、ご一緒させて頂きとうございます。
目の前にはスラムの白髪鬼ことローデンが、食い入るような眼をワタシに注いでいた。
命の危険を知らせる信号が鳴り響く。
早鐘を打つように鼓動が暴れる。
今そこにある危機、異世界生活初めての命の危険。
あぁ、もう全て終わりなんだと気付いてしまった。
せめてもの救いは、お花を摘みに行ってて良かったなってこと。
もう間違いなくビショビショにしてただろうから。
最後とはいえ、そんなみっともない恰好をお兄ちゃんに見られたくない。
悲鳴を上げなきゃいけないのに。
助けを呼ばなくちゃいけないのに。
ワタシの意志に逆らって、ちっとも口は動いてくれない。
あーコミュ障が憎い、そんなだから肝心な時にも口がまめらないのよ。
逃げなきゃいけないのに、足は地面に縫い付けられているかのよう。
……あれ……ねぇ……まだなの?
いっそひと思いに殺ってよね、痛いの苦手なんだから。
待つのも怖いし、早くして欲しいんだけど。
「アルトリア様、失礼の段、ご容赦ください。
私は医師のローデンと申します。
食中毒の被害者の症状が軽症で済みました此度の一件。
リア様のお力とお見受けしました。
お間違いございませんでしょうか?」
「あれ?……ん、と。
えっと……そう……です……」
「やはり……!
やはりっ、貴女様は真の聖女様で在らせられましたかっ?!
そうとは知らず、聖女様への数々の非礼をお許し下さいっ!!」
そう言ってローデンさんは額を地面に擦り付けて詫びを入れる。
正直、何なのさ?
いきなり土下座っちゅうか、もう五体投地?
なんかヤンキーが詫び入れさせてるみたいで、非常に誤解を招きそーでヤダ。
とりあえず、近いから。
顔の距離近い近い、怖いから、ねぇ?離れてお願い。
ローデンさんの顔面力強すぎてもう、子供に見せちゃダメなやつだからそれ。
顔面アップ、ダメ、ゼッタイ。
「今朝方炊き出し場において貴女様がお使いになられた、聖魔法”癒しの手”。
この魔法は、歴代の聖女様においても特に信仰心厚き方のみが成し得ると伝わる神の奇跡。
今生において目にする機会に恵まれるとは、まさか思いもよりませんでした!」
「はぁー……」
いやいやいや、あーたとのテンションが違い過ぎてこっちはヒくだけなんだけどね。
早く解放して欲しい、男のヒト怖い。
「ささ、早くシーナ様にご報告にあがりましょう。
そして本部への報告もございます。
その際は私がご案内を務めさせて頂きますので、どうぞご安心下さい。
リア様に置かれましては、この街の最高司祭を務めて頂くことになるのですから」
なんか、ワタシが思ってたのと違う、こんなの望んでないの。
こんなゴタゴタに巻き込まれたいわけじゃない。
偉くなんかなりたくないの、放っておいて欲しいの。
誰にも期待していないの。
何にも期待してないの。
だから、何も期待しないで、ワタシに何も期待しないで。
何も欲しくないの。
お兄ちゃん以外、他に何も欲しくないの。
お兄ちゃんと二人っきりでいられたら、それだけでいいの。
みんながワタシを傷つけるの。
誰もワタシに優しくないの。
だから誰も信じられないの、信じたくないの。
信じるの、怖いの。
ねぇこわいよぅ、おにいちゃん……
ねぇ、お兄ちゃん、ワタシこのままどうなっちゃうの?
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