第1章-10 神について
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子供たちが教会へ見習いに入ること。
それは出世の糸口になる。
そう悪いことじゃない。
が、それは身元の確かな貴族の子弟だとか、多額の寄附金を払える裕福な平民、商人なんかに限られてくるわけだ。
(腐れ肛門愛好者め、地獄に堕ちゃあがれ。
まさかリアに手出しやがったら。
見てろよ。
あの豚野郎の汚らわしい腸詰肉を叩っ斬って、
地獄の業火で、こんがりベリーウェルダンに焼きあげてやるからな……)
流石にここで司祭相手に悪態をつくほどには俺も無謀ではない。
悪口雑言は腹の中にぐっとしまい込んだ。
この国の教会の教えは、ブリング公国から海を隔てた東方の大陸から伝わってきたものらしい。
もとは唯一神を信奉する教えのはずだが、ブリング公国においては土着の宗教観念と混じりあったものになっているようだ。
少なくとも元世界の一神教のように厳格では無いし、主神とは別の形で精霊や妖精、他の男神、女神の伝承や御伽噺も残っている。
地域独自の民間信仰や生活習慣に基づいた宗教観、道徳観を持つ教義を伝道しているってことだな。
ただ、俺の持つ元世界の記憶にもあるように、権威と宗教が結びついた際の面倒臭さってやつはこの娑婆でも共通みたいだぜ。
俺が懸念していること、そいつは別にある。
宗教者が金や権力に執着しているのは構わない。
だって考えてみろよ?
神と真実と崇高な理念にしか興味無いっていう変人がだぜ?
権力持って、狂った理想の世界ってぇやつを押し付けてくる方がよっぽど気持ち悪いしな。
俺たちは、聖人君子じゃない。
澄んだ水だけじゃ息苦しくて生きていけやしない。
適度な淀みは必要なんだ。
じゃなきゃ、息苦しくていけねぇや。
アンタだってそうだろ?
私は生まれてこの方、罪を起こしたこと等は一度もございません、だなんてやつ。
異常者以外のなんだってんだ。
知ってるかい?
この世の中でガチな事件を起こすイカれた野郎どもはさ。
いつだって真面目で善良な人間なんだぜ。
あいつら、自分の正義感に酔っぱらって勝手に突っ走ったあげく、他人様の迷惑顧みず、火薬庫で火遊びするようなキチガイなんだわ。
花火の後始末もしねぇし、できもしねぇしな。
全くしつけがなってないんだよ。
よく覚えちゃいないが、前世の記憶でもそうだったし、今の俺の知ってる範囲でも間違いないぜ。
だからな、対処法はたった1つだ。
ヤバいと感じたヤツは見つけ次第、薄暗い路地裏に追いこんでな。
こん棒で足腰立たなくなるまで、執拗にぶっ叩きまくることだぜ。
直感が全てだ。
感の鈍いヤツは長生きできない。
スラムの爺たちは、そうやってきちんとキチガイ達を区別して間引いてきた。
確かに中にはやりすぎた事もあったのかもしれねぇな。
だが、そんなヌルいこといって、守れるものなんか何1つありゃしねぇんだ。
なんせここは、スラムだからな。
おかげで、クッソたれなこのスラムで治安が維持されてるわけさな。
ここの貧困社会の先人達は偉いんだよ。
スラムの爺共、こういうやつらがスラムを維持し、そして街の富裕層共の平和な日常を支えてきたんだ。
常識だ、道徳だ、なんて言ってさ、俺ら獣を人がましい何かにキチンとしつけてくれる教会さまとは、是非今後ともヨロシクやっていきたいと思うがね。
だが、テメーが駄目だ。
年端もいかねぇ餓鬼を手籠めにするやつ。
修道女に餓鬼産ませて、あとは放り出して知らん顔。
弱者には何しても許されると思ってる本当のケダモノ達だ。
男も女も関係ない。
年端もいかないガキの時分から、俺たちは搾取されるだけの存在だ。
人間の面した化け物どもが、この世の中には存在している。
俺はそいつらだけは許さねぇ。
食い物にされ、ボロボロになって擦り切れていく子供たちに未来を。
いつか笑って過ごせるように。
その程度の希望だけはさ。
儚い希望だとしてもさ。
願ってもいいだろうがよ、俺達にだってよ。
許されるだろうがよ?
願うことくらいよ。
次章から時系列が同じで、妹視点となります。




