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01 さよならの朝
その日は、いつもと変わりのない一日だった。
いつもと同じように空で太陽が昇り、いつもと同じように家の外でニワトリが鳴いていた。
けれど、いつもと同じだったのは朝だけだった。
私の日課は、家族でお世話をしているニワトリの餌やりとその小屋の掃除。
その後は井戸にいって水くみを行わなければならない。
けれど、家の外に出た私を待っていたのは、そんないつもの日常ではなかった。
ニヤニヤ笑いの気持ちの悪い男たちが、私に飛びついてきて、布切れで口を押えてきた。
喋れなかった私は助けを呼ぶ事もできずに、猿轡をはめられ、縄で手足を縛られ、袋のようなものにいれられ、どこかへと攫われた。
黴臭くてほこりくさい入れ物にいれられる一瞬、家を見たのが最後だった。
それ以降、私は生まれ育った家をこの目で見た事はない。