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1話



「今日もこんにちは。私ですよ!」


 定番の挨拶とともに頭を左右に揺らす。私の動きに連動して、画面の中の『私』である2Dのバーチャルアバターが左右に揺れる。その横を視聴者のみんなのコメントが勢いよく流れていく。待ってただとか、楽しみにしてただとか、今日も可愛いねだとか、温かい言葉の数々に嬉しくなって、自然声のトーンも上がっていく。


「告知していた通り、今日は前から遊びたいと言っていたこのゲームをやります!」


 言うのと合わせて画面を切り替える。すると、オープニング用の画面からゲーム機の映像が枠に埋め込まれた画面へと移動する。ゲーム機の映像の傍らには『私』を象徴するバーチャルアバターが写っている。

 ここまで苦労した。ゲームはもともと好きだったし、パソコンゲームの動画配信は何度もしていたが、ゲーム機でプレイするゲームを動画配信できるようになるまでには、今まで全く知らなかった知識をいくつも付けなくてはいけなかった。


「何回もやるやる詐欺をしてごめんなさいね! 今回は頼りになる友人に手伝ってもらって、ようやく設定がうまくいきました。いつもメッセージでアドバイスをくれた皆さんありがとうございました! 心強かったですよ!」


 このゲームはずっとやりたかったのだ。動画配信でやろうと思っていたので予約して発売日に届いたはいいものの、準備がうまくいかず今までお預け状態だった。


「ようやく遊べて嬉しいです。メタルベア・シリーズの最新作ということで、もうずうううっと楽しみだったんですよ」


 コメント欄を見ると、メタルベアは名作だとか、今作も良かっただとか、早く遊んでほしかっただとか、そんなコメントが流れていく。これからプレイするゲームへの期待に、胸が更に高まる。


「ゲームを存分に楽しみたいので、おひねりをくれた皆さんへのお礼は最後にしますね。今日も皆さんありがとうございます!」


 この動画配信サイト『MineTube(まいんちゅーぶ)』にはOHINERI(おひねり)と呼ばれるサービスがある。視聴者が動画配信者に、金額を指定して寄付のようなことができるサービスだ。一般には()(せん)と呼ばれることもある。日本でサービスをスタートしたこの動画配信サイトでは、日本の伝統文化であったおひねりからとって、そのままこの投げ銭サービスをOHINERIと名付けたのだとか。おひねりをするとコメントがハイライトされるので、動画配信者をお金で応援しつつ、コメントも読んでもらいやすくなるという機能である。ちなみに、私も別の動画配信者さんに何度かおひねりを投げたことがある。


「メタルベア・シリーズ良いですよね。どれも素敵な作品ばかりで、どうしても昔の作品をプレイしたくてリメイク版を遊んだりしました」


 こうしているうちにも、SNSなどから動画配信に気づいた人たちがやってくる。「こんにちはー」「間に合った」「初見です」そんな素朴なコメントも、『私』の背中を後押ししてくれているようで嬉しい。私は躍動する心臓を落ち着かせるように、少しだけ導入トークを続ける。


「全体的にコミカルなテイストで、見た目はキュートなクマのぬいぐるみが主人公なのに、クマの正体は未来人に魔改造されてロボット化したAI兵器だとか、クマが自意識を徐々に獲得して己の存在について悩んだりだとか、時折現代社会について考えさせられる描写があったりだとか……。そもそもゲームの目的が軍の基地に潜入して生物兵器の実験施設を停止させるだとか、大陸間戦争の原因になりかけている宇宙からの飛来物を入手して破棄するだとか、やたらとハードコアなところがいいですよねー!」


 ゲームへの思いを長々と喋っていると、視聴者の同意する声に混じって呆れるような「こうなるとオタクは話が長いから」というコメントが見えてクスッとなる。


「ごめんごめん。オタクでごめんなさいね! つい夢中になって話してしまいました。もし機会があれば過去作もやっていきたいと思うので乞うご期待! ですよー」


 さて、ゲームの準備は十分。視聴者のボルテージもそこそこ。私のテンションはとても高い。ゲームを始めるとしよう。


「さて、始まった始まった。ほう、クマの顔少し老けてます? なにかの任務中でしょうか。ああ、命令の通信が来ましたね。お、ミッションオペレーターは変わってないんですね。この人がクマに命令する声、渋くてたまらないんですよほんと! 私このキャラ好きなんです。今回も命令してもらえるとは!」


 前作からのお気に入りのキャラクターの登場。もうこれだけでもプレイして良かったと思える。


「いやあ、それにしてもオープニング映像かっこいいですねー! クマなのに」


 そんなこんなでゲームの導入が始まったが、コメント欄は私が言ったものと同じ『クマなのに』というコメントで埋まっていた。これは一種の様式美のようなものだ。メタルベアのやたらとかっこいいシーンでは、そのシーンを褒めた後に『クマなのに』と言う謎の文化がある。みんなでこれを言うと、なんだか不思議と面白いのだ。

 こういう、みんなの気持ちが揃う一瞬の一体感が好きだ。動画配信を始める前、動画を見ているだけのときから、こういう一体感がずっと好きだった。まさか、私がこの一体感をひっぱっていく立場になるとは、人生とは思いも寄らないものである。『バーチャルは、ときに小説より奇なり』なんて。


「って、今作キャラメイクがあるんかい。えっ!?」


 なんでやねん。なんでクマの外見がいじれるねん。楽しいんかそれ。いやほんとなんで……。


「出鼻をくじかれてしまいましたが、まあやっていきましょう。てか結構カスタマイズできる項目多いですね。それでいいのかメタルベア。え、ツインテールにできる……」


 出だしはこんな感じで、このあとどうなってしまうのか。


 それはさておき!

 

 さあやっていきましょう。これからお見せするのは、ちょっと現実的だけど、夢いっぱいな世界のお話。バーチャルの魔法をかけられて、そんな世界に導かれた『私』のお話。



この小説は私の別の小説と世界観を共有しています。ただし、時代は微妙に違うかもしれません。


VRゲーマーお嬢様はeスポーツ動画配信でご飯が食べたい

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