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6、鼻で笑われまして

騎士科との合同授業が始まった。

始まってしまった。


先生が先頭の女子生徒に前に出る様に言うとその子はペアの子と二人で恥ずかしげにもじもじとしていた。


「姿勢を正してちゃんと前を向いとく方が綺麗だぞ」


ニヤリと笑ったマヌエルに女子生徒二人が顔を真っ赤に染めて頷いている。



そんな女子生徒の前に騎士科の男子生徒が現れ優雅にお辞儀をするとダンスの申し込みをして男女二組がパートナーとなって移動して行った。


そして踊るのだろう。


あら、これだけなら私ぼっちでも大丈夫なんじゃない?


と思って見ていると、二組の内、一組は端っこで踊り、もうひと組は彼等のダンスを観察している。

そして、ダンスが終わると、最初のタイミングが会ってなかったからそこを重点的に練習すると良いかもしれないと女子生徒にアドバイスをはじめた。


そんな感じではじまった。


やっぱり必要だよ!ペアの子!


次のペアも前に出る。


その子達は先生が知っているダンス上級者だった様で、お前達が相手なら…と先生が騎士科の生徒を指名してペアを作り、四人でまた奥のスペースに移動して一組ずつダンスをはじめた。


かなり上手い。

本格的な足さばきに、美しいステップと高いリフト。


騎士科の生徒もかなり上手で君上手だね。

なんてダンスをしながら話しをしている。


そして続く人達も何やら話をしながらダンスをしている。


更に言うと、最初に踊り出したパートナー達はパートナーを変えてまた踊っている。


なんだこの人達は。


ウラリーは、ダンスは普通よりも上手だと言う自信があった。何せ相手役はいつもラファエルなのだ。

けれど、ハッキリ言ってウラリーには体力が無い。

まるで無い。


家で練習する時は一曲躍るとすぐさま兄ラファエルが休ませるから未だ二曲続けて踊ったことが無い。


なんてこった。


休憩を挟みながらのダンスしか踊った記憶が無いでは無いか。


失敗した。怠けている場合じゃなかった!


ウラリーの順番が近付いてきている。


もう緊張が頂点に来ていた。


今まで、ダンスの時間は兄ラファエルと二人で気まずかった為、リリナ姫の邪魔者攻撃をにこやかに受け入れていた。


この時ばかりはリリナ姫の嫌味に付き合ってお茶を飲んだり、面白かっり、珍しかったりした歌劇の演目をお互いに言い合ったりしていた。


そして兄ラファエルが後でダンスの練習する?と聞いてくれていたが私は首を横に振っていた。


そんな事して無いで懸命にダンスをするべきだったのよ!


だって手を繋いだ瞬間にリリナ姫はどうやって察知するのか飛んでくるのだ。

そうなればラファエルはサッとどこかに消えていってくれる。

だから、リリナ姫様々だわ。なんてラファエルとの時間を恐れていたので有難がたく思っていた。


それにしたってリリナ姫はラファエルセンサーがついてるのかしら?

なんでラファエルとダンスしだしたらやって来てたんだろ?



単にダンスの授業は兄ラファエルが休みの日の午後のお茶の前と決めていたからリリナ姫がその頃を見計らい屋敷に突撃しに来ていただけだが、そんなこととは知らないウラリーは、リリナ姫をちょっと尊敬しつつもドン引きして見ていたのだ。


そうやって現実逃避している内に目の前にいた女子生徒の順番になりウラリーはちらりと騎士科の方に目を向けた。あちらもどうやら一人残っているようだ。


はぁ、緊張する!でも、現実逃避はもう終わりだわ!!


涙目のウラリーが前に出るとマヌエルがおっ、と顔を上げてこちらにやって来た。

「最後の生徒だな。ペア無しだから、お前の相手役は俺と騎士科の最後のやつ、ブルーナだな。」


ブルーナ?


ブルーナ騎士団長の息子の?


ウィリアム・ブルーナってあれよね?

攻略対象者の。


孤高の黒騎士って小っ恥ずかしい二つ名を持つ。

黒髪に青い瞳で精悍な顔立ちの?


うん、うん、こんな感じの顔だった。


「…………」


「よろしく」


「よろしくお願いします……」



サッと出された手に涙目のウラリーがそっと手を乗せるとウィリアムはなぜかホールの中央へと引っ張って行くでは無いか。


ウラリーは慌ててブレーキをかけるように止まろうとした、だけど、全く効き目が無いのは何でなのだ。


「な、なんで真ん中に行くんですか?!」


みんな端で踊っているでは無いか!?


「空いているからだ」

グイグイと引き摺られているウラリーはなんだそれ!?と更に慌てて手を振り払おうとするが無駄な抵抗だった。


ズルズルと引きずられて行く青い顔をした私の背後でブハッと先生の吹き出す声を聞いた。


くそぉ!こいつら!ちょっとイケメンだからって。


「いっ、嫌ですぅ!」


諦めの悪いウラリーにウィリアムが呆れた顔をして振り返った。


「お前、本当にあの飄々としたラファエルの妹なのか?」


急にでてきた兄の名前にウラリーはきょとんとした顔でウィリアムを見上げた。


なぜその名前が?


あっ、ああ!そっか。


そう言えば、ウィリアムはラファエルの友人だった!

ウィリアムの父、ブルーナ騎士団長はインファンティーノ公爵の友人なので二人は幼馴染みのだ。


インファンティーノ公爵家にウラリーが来た時には既にラファエルは学園に通っていたから必然的にウィリアムがインファンティーノ公爵家に遊びに来るようなこともなかった。


「私、兄とは血が繋がってませんし」

「まぁ、そうだな」


ふっと鼻で笑った顔が忌々しい。


それもそうだと独りごちる男にウラリーはむー、と尖った視線を送った。


絶対に馬鹿にしてるわ!


ムカムカして鼻がプクッと膨らんだ。


そんなウラリーを見てウィリアムがブッ、と小さく吹き出しているが、これは、アレですかね?

殴ってもいいやつ?



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