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ラファエル視点

(ラファエル視点)


─────────


僕に新しい母親が出来た。


僕を産んだ母親を亡くした父はずっとジメジメするばかりで仕事をしなくなった。あれほど仕事に誇りを持っていたはずが今や能無しになりうんざりとしていたのだが。


新しく妻となる愛しい人に誇れる男に成る可く、放ったらかしにしていた外交官の職に復帰し妻となる女を連れて近隣国へと赴くらしい。


しかし、執務はしないが執務室に籠るか紳士クラブでぐたぐたしているかの父が居なくなるだけで、結果、僕が今まで通り、領地の経営を父に変り担う事に変わりは無いと気付いた。


けれど、ジメジメするばかりの邪魔者が居なくなるならそれにこしたことは無い。


だから、僕は父の再婚を祝福した。


父が僕に紹介した母親となる女は、『公爵の妻』と言う役を務めるには些か頼りのない、頭の悪そうな女だったが、女に見惚れている周囲の反応を見て、女は顔が美しいのだろうと理解した。

金髪に青い瞳だろう。たぶん。


その母の後ろに人間の小さな女がいた。


なるほど、自分にも妻を用意したのだろう。

そう考えたが、違った。


「ラファエル、お前の四つ下で妹となったウラリーだよ」


父がそう言って小さな女、ウラリーを僕の前に出した。


なるほど、あの母親に似た色彩だ。


僕がじっと観察している間も、もじもじとして落ち着きのない、小さな女。


コレを品定めしろと言う意味だと理解して僕はまじまじとウラリーを遠慮なく見た。


身長はぼんやりした輪郭を目測で測ると10歳では平均以下だろう。


体重もぼんやりした輪郭から平均よりも軽めと判断する。


よって、この女は平均以下。

平均より5cm低く、3kgほど軽い。


顔はたぶん周囲の反応を見るに整っているはずだ。



本の読みすぎで極端に視力が落ちている僕は、人の美醜がわからない。

目の前に相手の顔を持って来るくらい、かなり近くでなければ判断出来ない。


けれど、そもそも僕は人の美醜などまるで興味が無かった。


目が悪くても僕は魔法が使えたから。文字も見ようと魔法を使えば見えたし。周囲に何があるのかわかる為、不便は無かった。


だから腐るほどの金が有っても治癒魔法で治す事も、眼鏡を付ける事も面倒でやっていない。


この世界には美しい顔を持ち、性別が男と言うだけで寄ってくる生き物が存在する。令嬢と言う生物は香水臭くて、気持ち悪い猫撫で声を頻繁に発する生き物だ。


中身は見栄と欲望に満ち、嫉妬で人を陥れる事に快感を得、見目麗しい男を侍らせる事を喜ぶ。

そんな醜悪な内面を持つ生き物が多い。

まぁ、中には何も考えていない頭の空っぽな女もいる。


けれど、臭かろうが臭くなかろうが、どんな女も僕にしたら大した違いはなかった。


女も男も思考し、嫉妬し、人を憎み陥れる。何が楽しいのか分からない事で笑い。何が行けなかったのか分からない事でなきだす。

おかしな生き物、そう言う認識で僕は僕以外を見ていた。



ただ、僕を煩わせ無い限りは放置する。


それだけだった。


けれど最近出会う小さな女達は、羽虫のように鬱陶しい、僕の姿を見つけた途端に驚く程に素早く群がってくる。


とても煩わしい存在だ。


そんな生き物が視力が悪いおかげで、ぼんやりと霞んで見えるならその方が良かった。


あまりにも煩わしい数人の小さな女には影に生きる犯罪者の集団に狙わせて闇市で売りに出し、退場してもらった。


キィキィと煩い生き物だったから活きが良く、高値で買い手が見つかった。


けれど、目の前の小さな女、妹と言うラベルを付けられたウラリーからはそんな煩わしさは感じなかった。


そして僕に不用意には近付かない。


だから、まぁ、同じ空間にその小さな女が息をしていても良いだろうと、そう思った。



ウラリーが来て少しすると彼女が絵本を読んでいるところにたまたま出くわした。


「………ウラリー、……何を読んでるんだい?」

「『キャンディと虫バイ菌』って本です」


警戒する様にこちらを見たが本の事を言っていると分かるとウラリーは警戒を解いた。

そして簡素にその本の題名を応えたウラリーはそれが異常だとは思って居ないようだった。


「へぇ、どんなお話しなの?」


僕も読めるけれど、その本を土産にと父から渡されたのは昨年だった。対象年齢5歳の他国の絵本だ。


だから目を通していない。


「……え?お兄ちゃん読んだことないの?これはね…」


彼女の話す言葉があっているのか絵本を見て、納得する。


なるほど…


ウラリーは他国の言葉を理解しているらしい。


あの頭の悪そうな女がこのウラリーと言う小さな女に他国の言語を教えたのだろうか?

家庭教師は雇っていなかったと報告にあったが。

父親だった男には無理だ。自国の言語すら怪しい馬鹿な男だったから論外だろう。


まぁ、いい


疑問には思ったが僕は学園に行く必要があった為、ウラリーの存在にいつまでも気を取られている訳も行かず、その日は疑問に蓋をした。



けれど、その翌日には船で何ヶ月もかかる遠い異国の本をウラリーはキャッキャウフフと恥じらいながら読んでいた。


「……ウラリー、その本は」


「あっ、まっ、まだ私には早いかな?って思ったんだけど。でもね?『魔法使いはパンティーになって』なんて書かれていたらやっぱり気になって!読んでみたらおばさんのパンティーに─」


僕が気になったのはその本の題名でも中身でも無かった。


ウラリーそのものが、気になったのだ。





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