3、15歳になりました
15歳になりました。
明日は学園に入学する日になります。
いよいよゲームが開始ですね。恐ろしい。
しかし、私は待っていたのだ。
さっさと殺されない確証が欲しい。
前世を思い出してからは、ひたすら兄ラファエルを避けまくったのだけど、どうやら兄の中の私は頭空っぽの要注意人物であり、監視対象者みたいで良く目が合う。
そうなれば話さないのも不自然だから、お兄ちゃんと妹の当たり障りの無い会話が成されるのだ。
私前世は一人っ子だったからサイコな危険人物だと時々忘れて、お兄ちゃんって居たら(居るけど)こんな感じかな?なんて思ってしまう。
そんな兄は家に帰ってくると大抵、一度は図書室に行く。
だから、私は極力、朝9時から夕方の16時までに図書室を利用する様に心掛けていた。
けれど、当たり障り無い会話以外に特には相手のスケジュールなんて話したりしないし、聞かれることも無い。
なので私は兄の休みを、学園の突発的な休みや、記念的な休みを知らない。
おかげで図書室でぐでーっと本を読んでいるとラファエルお兄ちゃんとばったりと会う事が多々あった。
学園は男子は四年制で先ずは二年間、一般教養や経済などを習い、あとは二年間騎士科か、魔術科に進むことになる。
ちなみに兄は最終学年で今は魔術科の四年生、しかも常に成績トップを維持しているエリート様だ。
対して、この世界においては、女性は働いたりはしないので女子生徒には、学園ではほとんどデビュー前の最終的な追い込みの淑女教育やら、貴族の妻に必要な教養を学ぶ。
この学園なら辺境の貴族の子弟も通うし、お見合いの意味もあるのだろう。
そんな訳で女子生徒の場合は二年間だけで終了だ。
しかも、結婚が決まっていたり、途中で決まれば、別に通わないでOK、なゆるゆる仕様。
前世ちょっぴりオタクな女子高生だった記憶のある私としては、魔術とか魔法と聞くと胸がときめく。
なので、私が魔法の世界に転生したのに魔法を使えないとかありえない!と、ある時、小難しい魔術書をデン、とテーブルに乗っけて見ていたものだから、なぜ女が魔術書を?もしかして勉強してるの?女が?
と、思ったのかも知れない。
私の魔力は魔術を発動出来るほどの量が無い。
それだと使えないって、知っていても、見るだけならタダだしと必死にワクワクしながら本を見ているとサッと本が浮かび上がった。
ひぇ?
「お、お兄ちゃん」
「ウラリーは、魔術に関心があるのかい?」
柔らかな、けれど無機質な声に若干ビビりな私はカクカクと振り子のように必死に頷く。
「そう」
ラファエルは少し何かを考える様にじっと私を見た後でちょいちょいと手招きした。
なんだろうと顔を向けると長い青みを帯びた銀髪に氷の様な水色の瞳がそこにあって……
ひぃ、と唾を飲んだ私は、逡巡してちょびっとラファエルに近づいた。
たぶん、こぶし一個ぶん。
するとラファエルの雰囲気がなにやら、不穏な空気となり、物理的にもひんやりして来た。
ピキっと足元の床が凍ったのを見て、私は慌てて兄の方へと、椅子二個分飛び越える。
ラファエルはその様子を見て、まぁいいと頷き私の手に触れた。
私の手のひらを上にして、そこに何かをポンと乗せると私を見た。
「はい」
私はなんだろうと目を瞬き手をひらいた。
「え?………うわぁ!お花だ!凄い氷の結晶みたいだ。」
氷魔術は難しいって魔術書には書いていたけど兄は様々な魔術の中でも氷魔術を好んで使う。
やっぱりラスボスだから?
間抜け面の妹を少しばかり満足そうに見たラファエルは、何やら機嫌良さげに去って行く。
ん?あれ本見ないの?
結局ラファエルは何しに来たのだろう?
そんな感じで度々図書室でばったりすること三年近く。
三年もお馬鹿なウラリーと話していたせいか、ラファエルはゲームよりも幾分よく話すキャラになっていた。
あれ?紳士的なキャラだけどこんな風に柔らかな話し方だったっけ?
もしかしたら病んで無いし、サイコからは無縁な穏やかな兄に成長しているのかもしれない!
そう思ってちょっと浮かれた。
だけど用心に越したことはない。確かめる術がないまま、日々は過ぎて。
やっと私も学園に通うので、学園の休日を把握出来る。
これでラファエルとばったりすることも無いと、私は学園に通う日を今か今かと待っていたのだ。
毎日の登下校に兄が一緒だと言う、極々当たり前の事実に気づくことなく……




