15、気付いた時には遅いらしい
結局ラファエルは私を一人では絶対に帰さないと全く譲らず私を連れて馬車に乗りこんだ。
ごめんなさいと心で詫びながらもどこかほっとする自分に気付きウラリーは愕然とした。
そんなはず無い。
そんなはず…
「どうかした?ウラリー、顔色が良くないよ?やっぱり人に酔ったのかも知れないな」
ラファエルの神妙な声にウラリーは後ろめたくなり慌てて大丈夫だと主張した。
「大丈夫、もう平気だから」
「本当に?」
心配そうに見て来るこの人は私の義兄だ。
好きにはなっちゃダメなんだよウラリー。
そう、わかってた事だ。
私はこの人の恋の障害で。
でも、そうはならないからって高を括っていた。
だってここは現実離れしたサイコな乙女ゲームの世界。
そんなの私の生きた世界とはまるで違う。
かけ離れてるから。
ずっとずっと、どこか他人事の様に捉えていた。
だから、この世界の人間に惚れるはずが無いと。
でも、ラファエルはあのスチルよりも人間味のある表情で私を見て来る。
あのゲームではずっと無関心に接していたウラリーを心配だってしてくれている。
ウラリーには無関心なはずの父だって、やっぱりゲームとは違って私の将来を心配だってしてくれていた。
いろんな矛盾がそこにある。
私の今生きている世界がどんな世界だって良い。
私は、ラファエルに恋をした。
でも、ウラリーみたいにラファエルの邪魔だけはしないわ。
「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいまちょっとマルケスに手が空いたら来るように伝えてくれる?」
「はい、すぐに」
黒髪で灰色の瞳の無表情なセウスは最近執事見習いになった青年で兄の側近マルケスさんの弟子と言っていたけどなんと無く同じような仕草をするからなるほどーと妙に納得できる。
この前、花壇の石に桑が当たり窓ガラスにその破片が飛んで来てガッシャーンとそれはそれは大きな音がなり私は飛び上がって驚いたって言うのに、このセウスとマルケスはじっと身動きせずに音の鳴った場所の特定をしていた。
冷静な人達だな。と感心したのに、次の瞬間には護衛に私を託すと二人ともさっと部屋から出て階段なんか無視してそっと足音すら立てずに下に飛び降りていた。
私はそこでアレを思い出す。
【インファンティーノ家の暗部】
つまりは、この人達、ウチの暗部の人達だと。気付いてしまった。
そんなセウスはラファエルの指示に従い、さっと居なくなっていた。
早い!早すぎます!普通の人はそんな速度で姿を消しませんよ!?
「さっ、ウラリー部屋に戻るでしょ?」
「あっ、そうだった!お父様にお話が─」
「…話?…へぇー、僕も一緒に行っても構わないかな?」
「……へっ!?」
ラファエルの手が驚いた顔のウラリーの手をサッと掴んできた。
「では、行こう」
そう言うとラファエルは当たり前の様にウラリーをエスコートして、インファンティーノ公爵さまの執務室に向かった。




