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猟奇的な兄の一日

ウラリーの寝室に行くと彼女はすやすやと眠りについていた。


「良く効いてる」

今日は少し騒がしいだろうと前もってウラリーには睡眠薬を飲ませている。どんなに薬慣れした者でも朝まで目覚めることは無い。


「ラファエル様、連れて参りました。地下の牢に入れてあります」


「ああ、わかった。今行くよ。…おやすみウラリー」


ラファエルはその足で地下に向かう。


この地下は特定の入室を許可した者にしか扉自体見えない仕組みとなっている。


カツカツとラファエル達の足音が薄暗い地下にかすかに響く。


それに気付いたのだろう。怯えた女の声が聞こえる。


「誰!?誰がわたくしをこんな所に」


しかし、女がこちらを見た瞬間目を見開き牢の鉄格子に縋り付いて目を輝かせた。


「ラファエル様!!助けに来て下さったのですね!!」


「やぁ、ジョルダーナ嬢……あぁ、すまない今は勘当され家名を持たないのだったな。では貴族名は捨てたただのエリザで構わないかな?」


ラファエルがそう言うとエリザベートはきょとんとラファエルを見た。まるで理解できないらしく彼女はだんまりになり、しばし呆然としてラファエルを見つめた。

けれどそんな事に感心の無いラファエルは微笑みを浮かべた表情を維持する必要も無いと、スっと無表情になってエリザベートを見た。


「君は先週とある男に頼み事をしたよね?」

ラファエルの言葉にエリザベートははっと、少し目を見開く。しかし、首を振った。


「なんのことですか?そんな事より、早く助けて下さいませ!お父様もご一緒ですか?」


焦りの表情を見せるエリザベートにラファエルは淡々とした声で告げた。


「君の父は今回の件は娘の単独であり、自分は無関係だと主張して君を籍から抜き、君の身柄をこちらに引き渡す事に合意したよ。」


「うっ、嘘です!そんなはずありません!!それにわたくしにはいったいなんのことを仰っているのかわかりませんわ?まるでわたくしが何かをしたように仰らないで下さい。こんな場所にわたくしを捕らえるなんていくらラファエル様でも許されませんわ!」


「へぇ、あくまでしらを切るつもりなんだね。」


ラファエルが低い声でそう言うと途端にエリザベートは息苦しくなった。しかし、誰かに首を絞められた訳でも口を塞がれている訳でも無いのに。一体なぜ?と怯えた顔をラファエルに向けた。


「い、息苦し…」


「話す気になったら右手を上げてくれれば、直ぐにそのまとわりつく様な息苦しさから解放するよ。あぁ、君は魔物を目視出来ないんだったね。」


ラファエルがそう言うとエリザベートの視界が急に青黒い半透明なもので覆われた。

いや、いきなり視界いっぱいに現れた。


「この魔物はルネッソンススライム。こいつは幾度滅しても再生するゼリー状の魔物だ。これを再生不可能な迄に灰にするには相当な魔力量が必要となる。だから、君の魔力量じゃ到底コレを剥がせない。」


ラファエルが今エリザベートの顔を覆う魔物の話をするとエリザベートは顔を白くしてじたばたと暴れた。


スライムが彼女の口を塞いでいなければ叫んでいただろう。


「さぁ、エリザ。自白剤で真っ白な頭になるか。魔物に窒息させられるか。もしくは自らの意思で、包み隠さず知りうる事を全て話す。君はどれにする?」


エリザベートは目の前の男をこの時になってはじめてちゃんと、獲物としてでは無く一人の人として見た。


日頃の柔らかな微かに笑みを浮かべる表情は万人の目には、優しく紳士的な美しい青年として映っていただろう。


けれど今、エリザベートの目の前にいる男は淡々とした声で話す無表情で恐ろしい男だった。

綺麗な顔は能面の様にエリザベートを見て来る。


そこにあるのは無関心だ。エリザベートの生にも死にも無関心で、例えエリザベートが無様に命乞いのしようと、情けなくも全てを話そうとも、エリザベートが魔物に窒息死させられようとどの選択肢をとってもラファエルに関心すら持たれていない。


「…………」


エリザベートに取り付いた魔物はエリザベートが死なないギリギリのところで上手く空気を送り込んでくる。いつの間にかエリザベートの口腔内にすら魔物は入り込んでいた。


その事実に気付いたエリザベートは涙と鼻水を垂れ流しながら身を捩りつつも右手を必死で上げた。


「……案外早かったね。じゃあルネ、魔石に戻って。」


ラファエルがそう言うとエリザベートを覆っていたスライムがスルスルと動いた。滑らかにつるんと移動していったスライムはラファエルの後ろに控えていた黒髪の青年の手に持つ魔石に吸い込まれていく。


見たことも無い不思議な光景にエリザベートの目は釘付けだ。


「さぁ、話してもらえるかい?君の知る全てを」


エリザベートは項垂れた様に手を床に付いて俯いた。


そして語り出す。彼女の知る全てを。




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