10、面倒な子
兄ラファエルが絶対安静を言い付けた為ウラリーはこの三日、ずっと部屋から出ていない。
先程、父である公爵様から呼ばれてお話をしてからは何もすることが無い。
「……あの、お庭くらいなら出ても─」
ウラリーは扉を開け、扉の前にいた護衛にごにょごにょと言ってみる。
「いえ、いけません!ラファエル様に絶対安静にと言付かっておりますので!」
でもやっぱり返ってくるのは判を押したような答えだった。
「はぁー」
センチメンタルは苦手なのに。じっとしていると能天気なウラリーだって色々と考えてしまうのだ。だからこそ、気分転換をしたかったのだけど……
頭の傷は血が出ただけで大したことは無く、兄が大袈裟に高名な治癒術者を呼んでしまい、あっという間に傷は癒された為なぜ絶対安静になっているのかと抗議したが。
先程と同じ様に、判で押したような答えが返ってくるだけだった。
もうすっかり治っている。むしろ数日前に出来た靴擦れまでキレイさっぱり治ってしまったので前よりも元気だと思う!
でも公爵様の話だと今回の件は悪質過ぎた為、インファンティーノ公爵家から正式に訴えたそうだ。
その結果、アウロラは規律の厳しい修道院へと既に送られ、少しでも心証を良くするべく取り巻きの令嬢達は家から勘当して追い出すように、と働きかけているらしい。
ウラリーとしては痛くて恐ろしかったけれどどうにも寝覚めの悪くなりそうな終わり方がどうにも気にかかった。
流石に私を叩いたからって家から勘当されたりしたら貴族の令嬢がどうやって生きて行くと言うのだろうか?
だから、取り巻き令嬢達の勘当を取り消してもらってせめて修道院へ送ってもらえないかと公爵様に、では無く母にこっそりとお願いしてみた。
その作戦は見事に成功した。公爵様は愛する妻に可愛らしくお願いされて、とてもデレながら動いて下さったのだ。良かった!
ありがとうお母様!流石だわ!
もちろん公爵様にも、直接、ありがとうございますと伝えておいた。
お忙しい中動いて下さって本当に有難い。
だから、公爵様が、私が部屋を出る時に言った言葉に素直に了承を伝えたのだ。
公爵様には本当に、物凄く、感謝しているから。
「私の方で、君の夫を決めても構わないかい?」と言われたので。
「はい、もちろんです。」と……
気付けばすんなりと返事をしていた。
そうだよね。私は貴族の娘なんだから。
知らない人に嫁ぐなんて当たり前の事だ。
公爵様が私を引き取ってくれなければ私は野垂れ死にしていたはずなんだから。
少しでも役に立つ縁組だったら嬉しいと本心からそう思っている。
そう、理解はしているのだ。
ただちょっと驚いただけなのだ。
そんな訳で……なんだか、ちょっと気分転換がしたかった。
だから、庭を散歩でもしようかと。
そう思った。
もうすぐ兄ラファエルが帰って来る時間だから……
こんな情けない顔を見られたら更に大袈裟に絶対安静を言いつけるかもしれないし
だから……
私は今、びっくりするくらい情けない顔をしていると思うから。
けれど結局は、気分転換をする事も叶わないまま。
コンコンと規則正しいノックが鳴り、私は直ぐにそれが誰なのかわかった。
だから慌てて、けれど静かに寝室まで移動し、布団に潜った。
このままやり過ごせばいい。
夜になったらきっと普段の私に戻るのだから。
そう思って布団を被りもぞもぞとしていると─
ガチャリと扉が開いた。
「ウラリー?………ん?」
足音がカツカツと近づいてきて布団お化け状態のウラリーに気付いたのだろう。
ラファエルの足音がピタリと止まった。
「ウラリー。どうかしたのかな?寝た振りなんてして、何かあった?」
「……なんでも、ないよ?」
「ウラリーは嘘が下手だな。そんな泣きそうな声じゃ信じてあげられないよ?」
ラファエルの声がやけに優しくて。
こんな時にそんな声は卑怯だと、情けない顔をぎゅっと俯けて布団をぐるぐると巻き付けてみたのに。
「仕方ないな。今日はその嘘を信じてあげるから。だからさ、僕に抱っこされときなさい」
「…お兄ちゃん?」
ひょいと布団ごと身体が浮かび、ちょっと硬いでこぼこの上に降ろされた。
あったかいでこぼこが、ぎゅっと抱きしめて来るから私は息苦しいし、窮屈だしで。
結局私は俯いたまま、布団を剥いででこぼこにゴスっと頭突きをして……
シャツの胸元を握りしめていた。
「お兄ちゃん、私ね」
「………うん」
「元気なんだけどね?」
「あぁ、はいはい」
「ちゃんと聞いてるの?」
「うん、まぁ、いちおうね」
「……………もういい!」
「ふっ、ウラリーは面倒な子だな」
「面倒じゃないもん!」
「いや、それは僕が決める事だよね?」
「面倒だけど面倒じゃ無いから!だから、いい子いい子してみて?」
「君は人の話を聞いてないね?ウラリー。まぁいいか。うん、ウラリーはいい子だね」
たぶん、サイコとかちょっと怖いヤツだとか、ヤンデレだとか、ちょっとヤバたんだとか。
そんなこと、全部全部、どこかに飛んで行ってたんだな。
と思う訳です。




