9、あなた、やらかしましたね
学園生活が始まって、あと少しで3ヶ月となる頃、淑女クラスの普通科から嫌がらせを受けるクラスメイトが増えて来た。
その理由は四年の騎士科の生徒との合同授業が一度もないからだそうだ。
私達のクラスは特進科で有力貴族や大富豪の娘ばかりで、金と権力でイケメンのクラスを独占していると言う呆れた理由で複数人の令嬢達に囲まれてしまったと言う令嬢がマヌエルに被害の報告に行って発覚した。
令嬢達には厳重注意をしたそうだが。
でも、要するにその絡んで来た子達はイケメンとダンスがしたいって事だよね?
そんな苦情は先生達に言ってくれ。
なんて暇な人達なんだろう。
そう思っていたら私もまんまと歩いているところを拉致られた。
普通こういうのは主人公マリーの役目じゃないの?!
そもそも、そう言えば最近、マリーを学園で見かけない。
もしかしたら既に誰かのルートに入り監禁されてたり?
まだ学園始まって二ヶ月ちょっとくらいなのに。
そして私は、と言えば…気付けば校舎の外れで令嬢達にぐるりと周囲を包囲されていた。
怖すぎる。
少し前まではインファンティーノ公爵の令嬢と恐れられていたのだけど。
どこで調べて来たのか彼女達は私の本当の父を知っていた。
「卑しくも公爵様に取り入って歓迎もされていないのに公爵家に養子縁組をして頂いたんでしょう?」
そう言って来たのはバローネ家の令嬢アウロラだ。
彼女はウィリアムルートの悪役令嬢だけどウィリアムルートは隣国に拉致されるから悪役令嬢は余り活躍の場がない。
「ウラリーさん、少しあなたに言いたい事がありますのよ?」
リリナ姫とはいとこ同士だと言うアウロラは腕を組み目を細めてウラリーを睨み付けてきた。
「あなた、本来は貧乏な伯爵家の令嬢なのよね?それなのに公爵令嬢を騙るだなんて!!しかも生意気にも、ウィリアム様とダンスをして!!」
シュッと空を切る音が鳴り…
バシン!
「っ、きゃ!…っ」
ヒートアップしてきた令嬢達は私目掛けて手にした扇子を振り上げてパシッ、バシン!と手当り次第に叩いてくる。
彼女以外の令嬢達は伯爵家と子爵家の令嬢だ。
身分云々で言うなら伯爵家の出で公爵家に養子縁組されたウラリーは公爵家に籍を置いているので国の扱いではちゃんと公爵令嬢だし、侯爵家の令嬢に口を挟む権利は無いし、ほかの令嬢たちに至っては完全にやらかしている。
ゲームのストーリーでは彼女達にアウロラが身分を笠に着て叩きなさいと命令する為、取り巻き令嬢達は渋々主人公を叩くので、そのことが発覚しても咎は減刑されるのだろうけれど。
主人公を相手にしてる訳じゃないからなのか、余程私のことが気に食わないからなのか。
彼女達は命令されること無く目を尖らせて手を振りあげていた。
そんな訳で、完全に身分が上の令嬢に対する傷害事件である。
暴力に全く動じない令嬢なら毅然とした態度で彼女達を叱りつけたりするのかもしれないし、歯向かっていくのかもしれない。
けれど私はビビって手も足も出ないで居た。
「そのお綺麗な顔をわたくしが汚して躾をして差し上げてよ!」
興奮気味に扇子を手にしたアウロラが手を振りあげる。
「きゃっ!」
ヒュンと音がして衝撃が走った。
「痛っ………」
バシンと当たったのは頭と手の甲だったが、運悪く扇子の飾りの宝石が皮膚を傷付けたのか頭にズキズキとした痛みが走る。
「おい!!何してる!!」
「ウラリー!?大丈夫か!」
そんな時、兄と男性の声がした。
今まで、前世も含め、虐めやリンチなんて事とは無縁に、のほほんと生きてきていたウラリーはこの時かなりの恐怖でガチガチに力み、何とかこの恐怖に耐えていた。
痛い、しかし、それを遥かに上回る恐怖に、身を竦め、耐え忍ぶ以外にどうにも出来ない状態だった。
そこに現れた兄ラファエルとマヌエルの姿を目にして緊張が緩み、ウラリーはへなへなとその場に座り込んだ。
一気に顔色を無くして逃げ出した令嬢達をマヌエルが追っていく。
バタバタと逃げ惑う彼女達、全ての名を呼び拘束魔法を使い捕まえたようだ。
「ウラリー、誰がこんな事を」
ショックを受けた様に拳を握り締める、兄ラファエルの声は硬かった。
ゆらりとラファエルは先程ウラリーを叩いた扇子を握っている令嬢、バローネ家の令嬢であるアウロラの前に立った。
アウロラは拘束魔法で手にした扇子ごと見えない帯でぐるぐる巻にされているらしかった。
「君だね。ウラリーをその扇子で叩いていたのは。君は……死にたいのかな?」
そんな不穏過ぎるラファエルの言葉にウラリーははっと覚醒した。
「お、お兄…様!?大丈夫ですから!少しだけ血が出ているだけで大した傷では─」
「血が?ウラリー見せて!?」
日頃冷静沈着で紳士的なラファエルは見たことも無い険しい顔をして大きな声を出した。
それを聞いて……しまった!と思った。
血が出ている事には気付いていなかったのか!と思ったのだが、後の祭りだ。
そんな常に無いラファエルの様子に次第に周囲には人が集まり出した。
ウラリーを囲んでいた令嬢達は集まって来た周囲の目に、ひそひそと話をする様子に、身を縮め、中には泣き出す令嬢までいる。
「そうか、バローネ家は我が家と対立する構えなんだね?」
「なっ!?なぜですの!?なぜそんな、そんな!そんな訳ございませんわ!」
ラファエルの言葉にアウロラが驚いた顔をしてラファエルを見た。
「なぜ?おかしな事を言うね?今日の事は父に報告させて頂く。バローネ家の令嬢が我が家の大切なウラリーに危害を加え亡き者にしようとしていたと。目撃者は私だよ。後、ついでにマヌエル・ブラーガ先生かな。」
「そっ、そんなっ!?ですが、その女は公爵家の血など継いでませんわ!」
アウロラは兄ラファエルに抱きしめられているウラリーをギリギリと睨んでいた。
「君は頭の可哀想な、無知な令嬢だったんだね」
その声は静かだけど、たぶん、兄の中で彼女を人から虫けらに分類した瞬間だったんだと思う。
そう、目が物語っていた。
兄はわかりやすく、心を抉りながら笑顔で身分制度と、アウロラの仕出かしたことを比較して行く。
もし、この件を司法省に訴え捜査と裁きが成されれば君は社会的に殺されると。
社会的に殺される貴族の令嬢の身の振り方としては療養や修道院へ送られたり、国外での婚姻など、色々とあるがそれは訴えた相手が指定する場合もある事。
もし公爵家からの指定が通るなら修道院を選択するつもりだと。
指定する予定の規律の厳しい修道院がどんなに恐ろしい場所なのかを、ラファエルは落ち着いた声で話しながらアウロラを見据えていた。
結果、バローネ家の令嬢アウロラは発狂せんばかりに兄ラファエルに謝っていたが兄ラファエルは人の目が十分に集まってきたのを見計らい、アウロラに最終通牒を突き付けた。
「君を許す気は無いよ。司法省に行った後に、バローネ家へ正式に抗議するので、そのおつもりで」
そう言ってウラリーを抱き上げるとラファエルは医務室へ行き、応急処置を終えると迎えの馬車に乗り込み足早に屋敷へと帰宅した。
恐ろしく、そしてねちっこい性格なのだと今日、兄の性格を再認識した。
色々と恐ろしい一日だった。




