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セーブデータをお探しですか?  作者: 卵粥
アサーティール王国編
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セーブ04 赤髪の青年

「おい、アンタか? さっき受付嬢と話してた勇者様ってやつは」


 ぼーっとロビーの端っこの椅子に座りラベンダーを待っていたら、声をかけられた。

 なんだ、と見上げると、真っ赤な短髪に真っ赤な瞳を持つ青年が俺の目の前に仁王立ちになっていた。


「えーと、多分そうですけど…何か?」


 突然だったのでまじまじとその青年を見る。


「いや? 勇者ってならどのくらいの実力か知りたくてよ。

名前だけのやつならオレが代わってやろうかなってさ」


 ちょっと仰っている意味がわかりませんがこの青年は相当自分に自信があるのだろう。

 はぁ、としか言えなくなる俺。

 そんな俺が気に入らないのか、こちらを睨み、


「アンタ、ランクいくつだ?

ちょっと表で勝負しようぜ?」


 はーん、面倒なパターンだなと理解した時には時すでに遅し。


「いや、あの、俺人間相手に戦った事なんてないんでちょっと怖いんですけど…」


 嘘である。

一応小さい頃、学校で模擬戦を何度かした事がある。全戦全勝だったけど。


「人相手に戦えないヘタレが勇者やれると思ってんのか?」


 呆れたように俺を見下ろす青年は、小馬鹿にしたような瞳をしている。

 うーん、イラっとくる。しかし我慢。スルーできる問題はスルーしよう。

 面倒事が大嫌いなラベンダーにひっぱたかれる。


「一応、魔物殺しで名が通っているらしいんで大丈夫かと…。

そう言った人の悪は貴方が叩けば役割分担になるのでは?」


 我ながら筋の通った返しだと思う。

しかし気に入らないらしい。


「なんだ、逃げんのか?」


 とんだ腰抜けだなと吐き捨てられる。

うーん、ムカつく。


「まあ、その、俺、一応Aランクらしいんで…」

「はぁ!? お前がオレと同じAランクだぁ!?」

「あ、お前Aなんだ」


 てっきりBとかかと、と素が出てしまう。

 青年は今度こそキレたらしく、俺の胸ぐらを掴む。


「人の事なめてると痛い目みんぞ?

問答無用で一戦付き合え」


 青年は一方的にそう言うと俺を引きずるようにして外に出る。


「悪かった悪かった。

俺が悪かったからそれはやめません?」


 ラベンダーにひっぱたかれる。痛いんだよあいつの平手打ち。


「問答無用だっつっただろ。

なに、折れても腕の一本やそこらさ。殺しゃしねえよ」

「俺腕折れるとか絶対嫌なんだけど」


 痛いじゃんアレ。

 そうこう言い合っているうちに、ギルドの外、と言うか模擬戦をやる様な場所に連れていかれ突き飛ばすように放される。


「アンタ、確かギルドの新入りだよな? 教えてやるよ。ここはギルドメンバーが自由に使えるトレーニングエリア。

どう言う手口でいきなりA判定を貰ったのかは知らねぇが、一発ぶん殴ってやる」

「話が違いません?」


 一戦っててっきり剣術戦かと。

だってこの青年剣士っぽいし。

 それが殴り合いの喧嘩みたいなことになっている。

俺殴るのも殴られるのも好きじゃないのに。


「とっとと構えろ身の程知らず」


 シャッっと鞘から剣を抜く青年。あ、剣術戦なのね。


「いや、だから、」


 俺は戦う気なんてないとあれほど。

言葉を声にする前に斬りかかって来る青年。短気だな。

 振り下ろされた剣をひょいとかわしてどうしようと呑気に考える。

 言っちゃ悪いがこの青年と俺の実力差は俺のが圧倒的に上なのだ。

 モンスターを殺しまくったおかげかなんなのか、相手の剣を抜く動きや戦闘に入った時の視線、呼吸のテンポの変化などで相手がどのくらい自分と差があるのか分かるようになってしまった。

良くも悪くも、役には立っている。

 残念ながら俺は戦闘に入る時の動きを見ない限り相手の強さははっきりとわからない。もしアサーティール王は普段の動きで相手の力量を見破れるなら流石としか言いようがない。


 目の前の青年はどうやら突きと切り込みをうまく使い分け、素早いスピードで相手の間合いに入りあっという間に切り崩すのが得意らしい。

 しかし残念なことに俺にとってその素早さはとても遅く見える。

 一度だけ、俺は空中戦に特化したデーモンと戦った事がある。そいつのスピードは音速を超えており、死にかけた。カトレアが途中駆けつけてくれたから勝てたものの、カトレアが来なければ確実に死んでいた。

 あれ以来の戦闘時、俺の目に映る相手はのんびりした動きをしている。多分、音速を見たせいで網膜か何かがおかしくなったのだろう。


「ちょこまか逃げんな!!」

「いやいやいや逃げなきゃ怪我するもん逃げるでしょ」


 俺に剣がかすりもせず自棄を起こしたのか、先ほどの綺麗なテンポの剣捌きが乱れてきた。

 あれだけ素早い動きをすると言う事は体力も消耗する。この青年は長時間は戦えない。つまり、その最も全力を出せる短時間凌いでしまえばこちらの勝ちと言うわけだ。


「そろそろ疲れてこないです? もうやめません? 俺、あんまり変な事してると仲間に平手打ち食らうんですけど…」


 ラベンダーがまだテストを受けていることを祈りつつ、青年に声をかければ睨まれた。


「んなモン知らねえよ!!」

「俺は知るんだよ…」


 ラベンダーに怒られるのは屁でもないが、平手打ちは別なのだ。

 魔女の癖に無駄に威力の高い平手打ち。多分、ライラにちょっかいかけてたやつらを片端から潰していたのが原因だろう。


「ちっ、興ざめだ」

「それはよかった」


 青年はイライラと剣を鞘に納めてくれた。

ほっとため息を吐くと、容赦ない蹴りが脛に決まった。


「い"っ!?」

「今日はこれで勘弁してやる」


 ずんずんと機嫌悪そうに青年はどこかに行ってしまった。

 そう言えば、名前を聞くの忘れてたな。まあいっか。縁があればまた会えるだろう。


◇◇◇


「あんたはほんっっっっとーーーーーーにカトレアがいないと問題ばかり起こすのかい!?

首輪でもつけてやろうか!?」

「ごめんって」


 ふらふらと痛む脛を引きずりながらロビーに戻れば鬼の形相のラベンダーに胸ぐらを掴まれガクガクと揺さぶられた。

 酔う酔うと降参のポーズを取るも全く意味を成さないらしい。


「勇者になったのに何短気に喧嘩してんだい!? ガキかい!?」

「いや向こうが問答無用で」

「お黙り」

「ハイ」


 言い訳も説明もさせてもらえない。

とほほ、としばらくラベンダーの説教を聞き流していると、


「あ、あの…」


 控えめに声をかけられた。

 見ると、綺麗な緑髪をポニーテールにし、髪の色と同じ瞳を持つ魔導師らしい服装をした女がいた。


「ん? あんたは?」


 ぱっと俺を放し、その女に向き合うラベンダー。

いきなり放された俺はよろける。


「あ、はい、私はフィオーレと言います。

あの、どうか、その勇者さんを怒らないでください…。

私のPTのリーダー、キンマが一方的に喧嘩を売り一方的に始めたことなので…」


 どうやら先ほどの青年の仲間らしい。

青年はキンマと言うのか。覚えておこう。


「いや、いいんだよ、そう言うやつのテンポに流されるこのギムが全部悪いからね。」

「ちょっ」


 フィオーレの言葉にラベンダーが笑顔で返す。

反論しようとするが、何か文句でも?と言う圧力で次の言葉が出なかった。解せぬ。

 数十分前に安堵した俺よ、未来の俺は全く安堵とはかけ離れた場所にいるぞ。

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