セーブ03 ギルドへ行こう
街に入り、ラベンダーとすぐに合流できたのでさっそくギルドに行くことになった。
「ふうん、王様直属の勇者ねぇ。それにライラ達の事を探す協力も取り付けお姫様にも声をかけられたなんて…あんた本当に昨日からどうしちまったんだい…」
城であった事を一応ラベンダーに話しながらギルドへと向かう。
ラベンダーはやはりうんうんと唸っている。
「まあ、何があったのかは聞いたところで答えるつもりはなさそうだし…そうだねぇ、お姫さんはどのくらい美人だったんだい?」
やれやれとため息を吐きながら俺を見るラベンダー。
いきなり話を変えて来るのは今更だ。切り替えが速いのか遅いのか。
「あー…どのくらいと言われても、美人の基準と言うか度合いがよくわからないからなぁ…」
俺の答えにふぅんとラベンダーはつまらなそうに返してくる。なんだ、めちゃくちゃ美人でしたよとでも言えばよかったのか。
「あんたの好みじゃぁなかったってことかい」
「まあそんなとこじゃないの…」
下手げに言葉を間違えれば何を言われるかわからない。
以前ライラから聞いた事がある。『兄ちゃん兄ちゃんー、女の子ってねー、恋バナがだーいすきだからー、下手げなこと言うとー、尾びれ背びれがついてー、あっという間に噂になっちゃうからー、気を付けた方がいいよー!』と。
恐ろしいったらありゃしねえなと呆れた記憶がある。
「あんたの好みってやっぱ偏っているよねぇ。
タレ目に下の方になるにつれ緑のグラデーションの金髪、そして努力家。165㎝程度の身長で18歳の女とかでしょ。どうせ」
「何故カトレアが出てくる」
「ほらねぇ、名前を言わなくてもすぐにわかっちゃう」
「流石にその情報量があれば誰でもわかるわ」
「はいはい」
つまんない男だねぇとラベンダーはまたため息を吐く。
悪かったなとだけ返しそれ以上は何も言わないでおく。女の好き嫌いで何故カトレアが出てくるのかがとても謎だがまあ揶揄われただけだろう。
「あんたは勇者をやる前に少しはその鈍感さをどうにかしてくるといいと思うんだけどねぇ」
見てるこっちがじれったいよとラベンダーがぼそっと呟く。
よくわからないのでスルーし、やっと見えてきたギルドをのんびり眺めた。
◇◇◇
「ようこそ冒険者ギルドへ。ギルドメンバーのご登録ですか?」
ギルドに入れば、受付のお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。
「そうです。えーと、城から何か連絡が来ていませんかね?」
王直属の勇者と言う事であらかじめギルドには連絡が入っているはずだ。
俺が質問すれば、受付のお姉さんはすぐにわかったらしく、
「王直属の勇者様ですね? 念のためお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
何やら記入用紙を持ってきてくれた。
「ビダーヤのギムレットです」
名乗れば、受付のお姉さんは頷いて記入用紙とペンを渡してくれた。
「確認しました。
ではこちらに記入をお願いします。」
記入用紙を受け取る。
ラベンダーは記入用紙をちらりとみると、ふぅんと目を細め、
「お姉さん、一般人のあたいもメンバーになれるかい?」
「お前こういうのに興味あったっけ?」
予想外の事を言い出すので思わず声が出る。
ラベンダーは基本一匹狼な為こう言う人の集まる場所には関わることが少ない。
自分から関わりに行くなんてまずないのに。だいたいライラに引っ張られるか口説かれてしぶしぶと言った感じだった。
「なんだい? 面白そうだからってだけだけど何か文句でもあるかい?」
「アッ、ナイデススミマセン」
にっこりと笑顔で追及するなと圧力をかけられ目を逸らす。
ラベンダーはそんな俺を見てほんとに何があったんだかとため息を吐く。お前ため息多いなとは言わないでおく。
「勿論登録はできますが、冒険者ランクを測定するのにテストがありますが大丈夫ですか?」
受付のお姉さんはラベンダーにそう問う。
「ああ、もちろん喜んで受けさせてもらうよ」
それに頷くラベンダー。
ではこちらへ、と受付のお姉さんに案内され別室に行ってしまったラベンダー。
「ラベンダーこそどうしちまったんだいだよ…」
ラベンダーの言葉を真似てため息を吐く。
そして渡された用紙にさっさと記入してしまう。
「ギムレットさんも冒険者ランクの測定テストをできますが、どうします?」
そこで戻ってきた受付のお姉さんに聞かれた。
「あ、できるんですか?
じゃあやってみたいです」
「わかりました。ではこちらへ」
興味があるのでやってみることにした。
ラベンダーとは違う別室に通される。
椅子と机が一つ、部屋の真ん中にあるだけの簡素な部屋に通された。
「そちらにお座りください。」
受付のお姉さんに促され椅子に座る。
すると、目の前に小さな水晶を置かれた。
「こちらの水晶は、ギムレットさんの体内にある魔力の大きさや魔力の属性、そして純粋なレベルなどを大まかに測定することができます。」
簡単に説明された。
「便利な道具ですね。
どうすれば?」
「触れて頂ければそれで大丈夫ですよ」
触れるだけでそこまでわかるなんてすごいなと純粋に感心しつつ、言われた通り触れてみる。
何も起こらない。これでいいのかと不安になるくらいに何も起こらない。
「あの、これ大丈夫なんですか?」
心配になり聞いてみれば、
「大丈夫ですよ。もう終わりました。
少々お待ちください。」
笑顔でそう言われ、受付のお姉さんは部屋から出て行ってしまった。
大丈夫なら大丈夫なのだろう。
ぼんやりしながら待っていると、すぐに受付のお姉さんは戻ってきた。
「お待たせしました。
ギムレットさんのランクが決まりましたよ。」
受付のお姉さんはそう笑顔で言って紙を俺に渡してくれた。
受け取り見て見ると、
{ギムレット
性別:男
役職:勇者
ランク:A
魔力量:50
属性:炎、水
得意魔法:身体強化
STR:10
DEX:6
VIT:8
AGI:7}
と書かれていた。
「えーと、これってつまりどのくらいですかね…」
全くと言っていいほど何もわからないのでおずおずと受付のお姉さんに聞いてみる。
受付のお姉さんは嫌な顔をするでもなく、
「すみません、説明を忘れていました。
簡単に言いますと、ギルドのランクはSSランクを最高にS、A、B、C、Dとあります。
B~D帯が基本的に多いです。Aランクは一握り程度しかいません。
そうですね、Aランクは一人でドラゴンと戦って互角と言った高レベル設定になっています。
Bランクですとその下のモンスターなら余裕で倒せると言った物でだんだん倒せるであろうモンスターが弱くなってDランクとなります。
レベル表示にしますと、Dは1~20、Cは21~40、Bは40~60、Aは61~75、Sは76~90、SSは91~100となってます。
S帯になりますと精霊と互角、と言ったところですね。
SS帯は残念ながらまだ数名しかいませんし、現役冒険者さんですと一人しかいません。
次に魔力量です。
魔力量とは最大100と設定されています。
魔法方面特化でないのに50はかなり高い数値です。
魔法方面特化の方でもよくて70~85となっていますので。
そして属性。
属性は火属性、土、地属性、水属性、風属性、無属性になります。
火属性は炎系、土、地属性は大地系、水属性は水系、風属性は風系、無属性は空間系を得意とするものに付与されます。
二つの属性を持つ者は多くはないですが多少はいます。
ですが基本一つの属性しか持てません。
その面でギムレットさんは二つお持ちなのですごいですよ。
希に、魔法を愛し魔法に愛された者は全属性を使いこなすとされていますが、今のところ私は見た事がありません。
で、得意魔法です。
これはその名の通りです。
魔法を使える者は誰しも得意魔法を持っている者ですので。
ギムレットさんの場合は属性での得意魔法ではなく、どうやら魔法が使える人ならある程度使える身体強化が得意魔法らしいです。
蛇足ですが、魔法が使えない魔術師さん達の場合は魔力ではなく技術面での測定が行われるんですよ。
私、てっきりギムレットさんは使えても魔法ではなく魔術方面かと思ってたので驚いちゃいましたよ!
最後にSTR、DEX、VIT、AGIですね。
STRは力の強さ、DEWは器用さ、VITは丈夫さ、AGIは回避力となっています。
全て最大値は10設定ですので、ギムレットさんは全てかなり高いと言う事になります。」
さすが勇者様に選ばれた方ですね、と受付のお姉さんは笑った。
やっと理解できた俺はほーとまた紙を見る。
やっぱり、ゲームの世界みたいだな、と改めて思う。
俺は向こうの世界…つまり高校生の俺が過ごしている世界ではあまりRPGゲームをやったことがないためそう言ったものはほとんど知らない。
回想にもちらっとしか出てこなかったし、一周目の俺は測定なんてしていなかった。
「Aランク…61~75程度か…ちょっと低いな」
ちょっと不満なのは自分のランク…レベルだ。
ドラゴン一匹と互角。十分強そうに見えるが、俺は不満でしかない。
互角と言う事は確実な勝利は約束されない。運が悪ければやられてしまう。
「ギムレットさんは変わっていますね。
他の冒険者さんはAランクとわかるととてもお喜びになるのに。不満そうな方なんて見たことないですよ」
くすくすと受付のお姉さんに笑われてしまう。
あはは、と苦笑しながら適当にはぐらかし、
「あの、Sランクになるにはどうすれば?」
気になったことを聞いてみる。
「ランクアップするには各ランクごとのクエスト、つまり依頼をある程度こなしてまたこのテストをするしかありませんね。
ギムレットさんの場合は勇者様なので、そうですね…いくつか調査を終えこの街に戻ってきた時に、お暇があり来てくださればまたテストをすることができる、と言ったところでしょうか。」
少し考え、受付のお姉さんは答えてくれた。
ほー、特別ルールって感じかな。それにしても受付のお姉さん、そこまでわかるなんていったい何者。
お礼を言って、この後どうすれば聞くと、
「先ほど記入いただいたものに間違いがないかご確認してくださったあと、ロビーの方でお待ちください。
ギルドメンバーの証明書のギルドカードとギルドバッチをご用意しますので。」
ここに来る前に記入した用紙を渡される。
一通り目を通し問題なかったので大丈夫ですと紙を返す。
「では、お待ちください」
受付のお姉さんはそう言って足早に部屋から出て行った。
俺ものんびりとロビーに戻る。
まだラベンダーの姿はない。
俺のが遅くテスト始まったのにどうしたんだろう。まぁいっか。迷惑かけてなければ。
そう言えば、ギルドメンバーになるのって普通はラベンダーみたくテストするのに俺はなんでパスできたのだろう。
やっぱり王直属の勇者だからか? それともあの王様は一目見ただけでこちらの力量を大まかに把握でもできるのだろうか。もしそうなら、俺がテストをパスできたのも納得できる。
何にせよ、特に問題もなくテストが終わったことにほっとした。
が、その安堵はすぐに木っ端微塵に消え去るのをまだ俺は知らない。