セーブ02 王との交渉
約半日歩き、やっとサラームの街に着いた。
すっかり昼になり街はとても賑やかだった。
この国の街並みはフランス風で統一されており、町ごとに煉瓦の色が違うのだ。
この街は白煉瓦を多く使っているこの街も綺麗な町だ。
「何か食べて俺は城に行くけど、お前はどうする?」
うーんと伸びをしているラベンダーに声をかければ、
「あたいも何か食べたらライラの情報集めに駆けまわるよ。ついでにカトレアの事も探しておくから安心して行ってくるといいさね」
そんじゃね、とふらふらどこかに行ってしまうラベンダー。
よろしく、とその背中に声を投げて俺も街の中心街へと進む。
◇◇◇
適当に食べ、城へ向かってみると、すぐに城の中へ通された。
城での出来事はよく覚えていない。
しみじみと城の中を見るとやはりすごい迫力だ。
掃除とか面倒くさそう…。等と思いながら豪華な部屋で待っていると、王の間へご案内しますと声がかけられた。
無駄に長い廊下を歩くと重々しい扉が現れる。
ギギッと軋みながら扉が開く。
扉の向こう側には大きな部屋があり、奥に置かれている玉座にアサーティール王国の王、アサーティール王が座っていた。
堂々としたその圧力は部屋に入ってなくてもよくわかる。
どっしりとした体格に真っ黒の髪。茶色の瞳。絹等を惜しみなく使った服はそれらを引き立てている。
ぶっちゃけ俺はこういう場での礼儀と言うものをよく知らない。
こう言う場にはあまり立ったことがない。村での表彰式だのなんだのも全てすっぽかすかカトレアに押し付けて逃亡していた。
だってめんどくさいじゃん? これを前カトレアに言ったら呆れ果ててしばらく口をきいてもらえなかった。二度と言わない。
真似事程度の礼儀しか持ち合わせていない俺だ。何故一周目の回想にはこの部分がなかったのか。恨めしい。
大きな部屋に入る前に一度礼をする。
「お初にお目にかかります。ビダーヤのギムレットと申します。」
部屋に入り、ある程度のところまで王に近づいて跪く。
王がひとつ頷く気配がする。
「面を上げよ。此度はよくぞ来てくれた。感謝する。
さて、さっそくだが本題に入らせてもらう。」
低く重みのある声だなと思った。
低く重みがあるのにはっきりと通る声。まさに王と言う感じだ。
「手紙にも書いたが、ここ最近どうやらモンスター達の動きが活発になってきた様でな。調査させたらモンスターをまとめる者が現れたと報告が入ったのだ。
そこで、だ。この国でモンスター…魔物殺しを得意とする主にこの者の討伐を依頼したい。」
やってくれるか、と言うように真っ直ぐ見つめられる。
勿論ここまで来たのだし引き受けるつもりだ。
が、俺はただ引き受けるつもりはない。
「そのご依頼、喜んで受けさせて頂きます。
しかし、一つだけこちらからもよろしいでしょうか」
俺の返しを面白いと取ったのか、王はふっと笑い続きを促してくる。
「そのご依頼で、魔物の総統者を討伐する為王の命により私は各地を回り、情報を集める事となるでしょう。
そこでです。実は私の実の妹と幼馴染が二年前から行方知れずなのです。情報を集める時その者たちも私は探すつもりでございます。
もし、途中で何か手掛かりになるものがあれば必ず私はそちらへと飛んでいくと思うのです。それでも、よろしいでしょうか」
これからの流れを把握しているのに驚いたのか、それとも自分勝手さに驚いたのか、王は少しの間何も言わなかった。
まあ、見てるしね。これからの流れ。知らない方がおかしいって感じなんだけども。
「ふむ、主は面白いやつだな。
よかろう。許可する。しかし、こちらの依頼を疎かにすることは許さぬ。
そして主にこの大きな依頼をした礼も兼ね、こちらでも主の探し人を探すように言っておこう。特徴を聞いてもいいかな?」
最悪全却下されるだろうな。されたらいいや勝手に探そうそうしようと思っていた俺は王の言葉に驚く。
「よろしいのですか? では遠慮なくお願い申し上げます。」
チャンスを逃すわけにはいかない。王国を上げて探してくれるのならかなり効率がいい。
言葉通り遠慮なくお願いし、特徴をいくつか口にすれば王はやはり面白そうに俺を見る。
なんだろう、俺ってそんなに面白い顔でもしてるのか、と深くは考えずにしておく。
「交渉成立と言ったところか。
では主には勇者と言う役職を与える。励んでくれ。」
それから少しだけ王と話し、役職を戴いてその場はお開きとなった。
ギルドメンバーになるよう最後に言われた。
いやぁ、言ってみるもんだなと内心ほっとしながら城の出口へと向かう。
そこで声をかけられた。
「貴方がお父様に面白い事を仰った方ね。
勇者になったそうですね。おめでとうございます。」
くすくすと微笑みながら俺に声をかけたのは、どうやら王の娘、お姫様らしい。
綺麗に整った知的な顔。王譲りの真っ黒の髪。きりっとしたつり目には茶色の瞳が輝いている。
すらりと女性らしいスタイル。上品だが派手すぎないドレスを見事に着こなす。
こりゃあすげえ美人なお姫様だなと素直に思った。きっとそこいらの男なら一目惚れしてしまうだろう。
見事に俺は興味がないのは何故だろう。
ここまで美人なんてなかなかいないぞ…と自分の美的感覚を疑う。いや、美人と思うのだからそこらは大丈夫なのか。好みの問題かな。
「ありがとうございます、ええと…姫君、であっていますかね?
それに俺、そんな面白い事を言ったのでしょうか…。」
会釈をしながら返せば、お姫様はまた笑った。
「お父様の仰っていた通り面白い方ですわね。
そうですね、面白いかどうかは人によるんじゃないかしら?
少なくとも私とお父様は面白いと思いましたよ。」
「はぁ…そう言うものですかね。ありがとうございます…?」
腑に落ちないが別に大きな問題ではないのでまあいいやと考えるのをやめる。
ここで話していても仕方ないしあまりラベンダーを待たせると後が怖い。
お姫様と少し話した後足早に城を後にした。